第66回 未消化の有給休暇の事後の買上げ義務
台湾の労働基準法施行規則24条3号の規定によれば、有給休暇の付与年度の末日を過ぎた場合、または雇用関係が終了した場合、労働者が行使しなかった有給休暇の日数に応じて、使用者は賃金相当の金銭を支払わなければならないとされている。
この規定に関して、解雇無効の判決が確定し復職した場合に、使用者は労働者のすべての未消化の有給休暇の日数分について、賃金相当の金銭で支給しなければならないかが、問題となった事件がある。
被告Yは、2005年6月1日をもって原告Xを解雇し、同日以降のXによる就労を拒んだ。Xは、本件解雇は無効であると主張して、Yに対し雇用関係存在確認訴訟を提起し、その結果、本件解雇は無効であるとの理由によりX・Y間の雇用関係の存在を確認する旨の判決が08年7月10日に確定した。Xは、同年8月6日に年齢を理由として、強制的に定年退職となった。
YはXに05年6月1日から08年8月5日までの期間中の賃金を支給したが、05年度から08年度までにXが行使しなかった有給休暇の買上げを拒否した。そのため、XはYに対し、すべての未消化の有給休暇の日数(05年度14日、06年度30日、07年度30日、08年度30日)に応じた賃金相当の金銭の支払を求めた。
11年6月14日台湾高等裁判所台中支所100年度労上更(一)字第3号判決は、以下の通り判示した。
労働基準法38条が有給休暇を認めた趣旨は、賃金を増やすことではなく、労働者が心身のリフレッシュや自己啓発などを図れるように、賃金の支払いを受けながら休暇を取ることにある。確かに、労働基準法施行規則24条3号には、労働者が行使しなかった有給休暇の日数に応じて、使用者が賃金相当の金銭を支払わなければならないとされているが、労働基準法38条の立法趣旨に沿うために、有給休暇の付与年度に現実に出勤をしていることが必要であり、かつ、労働者の責めに帰すことができない事由によって行使されなかった有給休暇に限り、その未消化日数に応じて使用者が賃金相当の金銭を支払う義務があると縮小解釈しなければならない。
本件では、XはYから無効な解雇によって就労を拒まれたが、06、07、08年度は現実に出勤していないことから、Yには06、07、08年度のXの未消化有給休暇の日数に応じた賃金相当の金銭補償義務はない。
これに対し、Xが解雇された05年度は、6月1日以前は出勤をしており、また、無効解雇というXの責めに帰すことができない事由によって、有給休暇は行使されなかったのであるから、当該未消化の有給休暇の日数14日に応じて、YはXに賃金相当の金銭を支払わなければならない。
Yは上記判決を不服として、最高裁に上告したが、棄却された(11年9月8日最高裁判所100年度台上字第1491号決定)。
台湾の労働基準法施行規則は、未消化の有給休暇の事後の買上げ義務を使用者に課しているが、裁判実務では、労働者が有給休暇の付与年度に現実に出勤していること、労働者の責めに帰すことができない事由によって有給休暇が行使されなかったことという2つの不文の要件が付され、当該義務が縮小解釈されている点に留意する必要がある。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。
執筆者紹介
早稲田大学法学部卒業。2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。
本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。