第74回 おとり広告に関する表示規制
広告における商品が、実際には広告の表示の通りに購入することができないものであるにもかかわらず、一般消費者がこれを購入できると誤認するおそれがある表示、いわゆる「おとり広告」は、不当表示として公正取引法によって規制の対象となっている。
これに関し、実際の販売数量が広告に表示されている数量と異なることも不当表示となるかが問題になった事件がある。
本件の概要は以下の通りである。
X社は、格安の高性能スマートフォン(以下、「スマホ」という)をネットで販売する企業である。2013年12月にはある低価格機種スマホが10分足らずで1万台が売れ、話題を集めた。
その販売手法については、以下の通りである。
(1)13年11月25日から12月8日までの広告に、「第一期紅○スマホ1万台限定」、9日よりネットで販売を開始すると表示した。そして12月9日に「9分50秒で1万台紅○スマホ完売」と広告を出した。
(2)12月10日から15日までの広告に「第二期紅○スマホ1万台限定」、16日よりネットで販売を開始すると表示した。そして16日に「1分08秒で1万台紅○スマホ完売」と広告を出した。
(3)12月18日から22日までの広告に「第三期紅○スマホ8千台限定」、23日よりネットで販売を開始すると表示した。そして23日に「0分25秒で8千台紅○スマホ完売」と広告を出した。
ところが、ある消費者が、12月23日零時頃にネットで当該スマホを購入しようとしたところ、ウェブサイト上で既に8千台が全て販売されたと表示されたため、X社が表示した数に満たない数しか用意できなかったのではないかと感じ、公正取引委員会(公平会)に通告した。
台湾の公正取引委員会は、14年7月30日の公処字第103097号処分により、上記行為が公正取引法21条の「虚偽不実又は人に誤解を与えるような表示」に該当するとして、差止命令を出し、X社に60万台湾ドルの過料の支払いを命じていた。 その理由は以下の通りである。
(1)公正取引法第21条第1項に基づき、事業者は、広告に商品の数量等について、虚偽不実又は人に誤解を与えるような不当表示をしてはならない。事業者が、広告において、特定の商品を限定数量で販売する旨を告知する場合、販売数が明記され、取引を行うための準備がなされていなければならない。広告に表示された数よりも少ない数しか用意していなかったり、実際にその一部について取引に応じることができない場合には、不当表示に該当するおそれがある。
(2)調査した結果、X社が「完売」と宣言した時点で実際に販売された数量は9339台(12月9日)、9492台(12月16日)、7389台(12月23)であることが明らかとなった。すなわち、X社は広告商品が完売していないにもかかわらず、「完売した」と虚偽の表示を行い、自ら販売を取りやめた。
これに対し、X社は広告に表示された数と実際の販売の数量との差はわずかなものであり、また、広告に表示された数どおり用意していたが、完売前に販売を取りやめないと、システム上で受取注文の数が準備数を超えるおそれがあったことから、本件行為は事業者の責に帰すべき事由以外によるものを理由として主張した。
台湾の公正取引委員会は、X社の主張に対し、次の通り、判断した。
確かに12月9日の第一期の販売を開始する前にX社は1万台のスマホを輸入した。しかし、そもそもX社が第一期の販売活動とは別個に、1750台を特定の顧客のために準備しなければならなかったことから、X社は12月9日の時点で合計11750台を予め用意しなければならなかった。それにもかかわらず、X社は広告に表示された数よりも少ない数しか用意していなかった。
また、実際の販売数量と1000台以内の差とはいえ、X社の広告の記載は、一般消費者 に対し、品薄になるほど人気になっている印象や次回に早く申し込みに行かなければなくなってしまうという心理的影響を与え、顧客が誤った取引の意思決定を行うことを誘引した。
さらに、特定の商品を限定数量で販売する手法を取った以上、事業者は事前に販売ルートの特徴、技術的な問題、商品供給能力等を勘案し、限定数量を決定した上で、広告どおり取引を行うための準備がなされていなければならない。技術上の制限等は事業者の責めに帰することができない事由に当たらない。
したがって、本件では、正当な理由がないのに、広告に表示された販売数量と実際の販売数量が異なっていると認められ、不当表示に当たるものと判断される。
広告した目玉商品以外のものを購入するように誘導する、いわゆる客寄せ広告は言うまでもなく、実際の販売数量が広告に表示されている数量と異なることも不当表示として、公正取引法によって規制の対象となりうる点に注意が必要である。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。
執筆者紹介
早稲田大学法学部卒業。2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。
本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。