第93回 従業員の犯罪について使用者は連帯賠償責任を負うか?

2013年に台湾全土で注目を集めたコーヒーショップ「媽媽嘴(MOMMOUTH)」殺人事件について、台湾高等裁判所は15年3月31日付第二審民事判決において、使用者は従業員の行為について監督責任があるため、雇用主らは、コーヒーショップ店長だった謝依涵被告による犯罪行為について、被害者に対し連帯して368万台湾元を賠償しなければならない旨の判決を下した。これが明らかになるや、大きな論議を呼んだ。

本件の概要:

13年2月、謝被告は勤務先のコーヒーショップ「媽媽嘴」において、まず睡眠薬を顧客の陳夫妻が飲用するコーヒーに混入した上で、コーヒーショップ付近の淡水河の川岸で、意識が混濁している2人をナイフで殺害し、2人が身につけていた金品を奪った。本件の刑事部分では、一審、二審裁判所はいずれも強盗殺人罪により謝被告に死刑の判決を下した。民事面では、被害者の家族が民法第188条第1項(被用者が職務執行に起因して、他者の権利を不法に侵害した場合、使用者は行為者と連帯して損害賠償責任を負う。ただし、被用者の選任およびその職務執行の監督に当たり相当の注意を払い、または相当の注意を払っていたとしても損害の発生を免れない場合、使用者は賠償責任を負わない)に基づき、謝被告と雇用主らに対し、368万元を連帯して賠償するよう求めて訴訟を提起した。

一審の台湾士林地方裁判所は、謝被告は店内ではなく淡水河の川岸で陳夫妻を殺害しており、また、事前に殺害を計画していたため、注意を払っていたとしても、同夫妻の殺害を防ぐことができなかったと判断し、雇用主らに責任はないとする判決を下した。

二審の高等裁判所は、謝被告はコーヒーショップの店内で飲み物に毒を盛っており、犯罪行為と職務の執行とに関連があり、また、雇用主は平素の謝被告についての勤務評価資料を提出することができなかったため、使用者としての従業員の選任および監督責任を果たしていないと判断し、雇用主らは連帯して賠償しなければならないとする判決を下した。

実務上、このように使用者が従業員による殺人行為に責任を負わなければならないというケースは非常にまれである。

本件は二審判決の際に、雇用主が上告する意向を示しており、まだ確定していない。高等裁判所の見解からすれば、使用者が従業員の勤務態度評価記録を提出することができるか否かは、使用者が監督責任を果たしているか否かを認定する重要な根拠であるため、企業の経営陣には特に留意されたい。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。