第197回 董事による自己または他者のための会社との取引の効力
台湾の会社法第223条の「董事が自己または他者のために会社と売買、金銭貸借またはその他の法律行為を行う場合、監査役が会社の代表となる」の規定の趣旨は、董事が自己または他者のために自らが董事を務める会社と売買、金銭貸借またはその他取引の性質を有し、利害関係を有する法律行為を行う場合には、董事と会社間の取引の公平性を確保し、董事間の個人的な関係により会社の利益が犠牲にされることを防止し、かつ双方代理を禁止する必要があるため、このような場合には監査役が会社の代表となり当該董事と交渉しなければならないということである。
しかし、会社法には、本条に違反した場合の法的効果について明文の規定がないため、違反した場合に当該取引行為が当然に無効となるのか、それとも他の法的効果が生じるのかについて、実務上争いがある。
この点について、最高裁判所は当然に無効となるという立場は採っていない。
会社の同意で判断
たとえば、2009年台上字第2050号判決では、「『董事が自己または他者のために会社と売買、金銭貸借またはその他の法律行為を行う場合、監査役が会社の代表となる』という会社法第223条の規定は、会社の利益を保護するために双方代理を禁止するものであって、公共の利益を保護するために設けられたものではないため、強行規定ではない。従って、董事が会社と行う金銭貸借などの法律行為が当該規定に違反しても、当然に無効となるわけではない」とされている。
当該判決はまた、民法第106条の自己代理、双方代理および民法170条第1項の無権代理の規定を援用して、「監査役が会社を代表していなくても、会社から事前の許諾または事後の承認を得さえすれば、董事が自己または他者のために会社と行う取引行為は、会社に対し効力を生じる」としている。
また、11年台上字第1672号判決では、「董事が自己または他者のために会社と売買、金銭貸借等の行為を行う場合、監査役が会社の代表にならなければならないが、これに違反した場合でも、会社の同意を得さえすれば、上記の売買等の行為は会社に対し効力を生じる」とされている。
なお、最高裁判所の判決ではないが、最近では17年6月9日に下された新北地方裁判所15年重訴字第592号判決においても、同様の見解が示されている。
以上からすれば、会社法第223条に違反した場合でも、董事が自己または他者のために会社と行う取引行為について、会社が事前または事後に承認すれば、当該取引行為は会社に対して効力を生じることになると解され得る。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。
執筆者紹介
早稲田大学法学部卒業。2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。
本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。