第238回 「国民裁判員」制度を導入へ

行政院は4月、「国民参与刑事審判法」草案(以下「本法」という)を閣議決定しました。近い将来、法律的な知識が全くない一般の台湾市民でも、誰もが「国民裁判員」となり、重大な刑事事件の審理に参加できるようになります。本法の重点は以下の通りです。

一.国民裁判員が審理に参加する事件:本法では、少年犯罪および薬物事件を除き、検察官が殺人罪などの罪名で起訴した懲役7年以上の重罪案件には、原則として国民裁判員が審理に参加しなければならないと規定されている。

二.国民裁判員の選出:無作為の抽選により、満23歳以上の台湾市民の中から選出する。ただし、一定の犯罪の前科がある、または事件の当事者と一定の親族関係があるなどの場合は、国民裁判員を任じてはならない。

三.審理を行う裁判所の法廷構成:国民裁判員が審理に参加する事件は、裁判官3名および国民裁判員6名により構成される。

四.判決の作成:犯罪の事実の認定、適用される法律条文および処罰については、裁判官と国民裁判員が票決により共同で決定する。そのうち有罪、無罪の決定については、3分の2以上(少なくとも6票)の同意が必要で、法律条文および処罰については、過半数(少なくとも5票)の同意がなければならない。

五.証拠調査の必要性、法令の解釈、訴訟手続をどのように行うかなどについては、裁判官が決定する。

背景に常識外れの判決

台湾が「国民裁判員」制度の導入を進める主な理由は、ここ数年、常識から外れた、一般市民にとって受け入れ難い判決が多く出ていることにあります。

素人の裁判参加によって、審理の長期化や、弁護士や被告が素人裁判官に対してパフォーマンスを行うようになること、さらに多くの常規を逸する判決が出てくるなどの問題も懸念されていますが、台湾政府の現在の姿勢を見る限り、国民裁判員制度の採用が中止される可能性は非常に低いでしょう。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。