第251回 訴訟の弁護士費用を相手側に請求できるか

台湾民事訴訟法第78条には「訴訟費用は敗訴した当事者が負担する」と規定されており、これは裁判所に納付する訴訟費用は敗訴者が負担することを指しますが、弁護士費用についてはどうでしょうか?

台湾では、原則として、契約で約定している場合、または和解契約で約定している場合、第三審の弁護士費用に限り、相手方に負担を要求できます。第三審は弁護士による代理が法律で強制的に定められているため、相手方の敗訴当事者に弁護士費用を請求できます。しかし、上限がないわけではなく、弁護士と当事者の間で約定された弁護士費用が高過ぎる場合、財産訴訟において裁判所は「裁判所選任弁護士および第三審弁護士費用の査定支給基準」第4条に基づき、弁護士費用を訴額(訴えにより請求する利益)の3%以下または最高で50万台湾元(約180万円)と査定し、非財産権訴訟においては、原則として1件の訴訟ごとに15万元と査定しています。

一審・二審で認められることも

では一審、二審訴訟の弁護士費用についてはどうでしょうか?実務上、少数の案件においては、裁判所は不法行為を理由として、弁護士費用を相手側に請求することを認めています。

台北地方裁判所2013年度訴字第4712号判決では「原告は法律専門家ではない上、勤務中に時間通りに法廷に出向いて訴訟に参加できない」などを理由として、弁護士費用を相手方に負担させることを認めましたが、二審において「民事一審、二審訴訟では弁護士代理強制制度を採っていない。当事者は弁護士の委任の可否を自由に判断でき、裁判所はその者が弁護士を委任していないことに起因して、証拠調べまたは自由心証において差異を生じさせることはないため、弁護士費用は必須の手続き費用ではない」として上記の台北地方裁判所の判断を棄却しました。

また、士林地方裁判所2011年度訴字第1415号判決でも「本事件の刑事犯罪に関わる法的紛争は複雑であり、また原告の会社は外国企業であり、その法定代理人は英国籍でありかつ中国語に習熟しておらず、台湾の法令規範にも精通していないため、原告が弁護士を委任したことにより支出した弁護士費用は、当然のことながら権利の拡大または防止のために必要な支出に該当する」ことを理由として、刑事被告が告訴人の弁護士費用を賠償しなければならないと判断しました。

以上により、裁判所は通常、相手方に一審、二審の訴訟の弁護士費用を請求してはならないと判断しますが、認められた前例がないわけではなく、また、台湾において外国企業は、裁判所に弁護士費用の請求が認められる可能性が地場企業よりも高いと考えられます。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。