第9回 プロダクト・バイ・プロセス・クレームについて、最高裁判決後、明確性要件違反ではないとされた事例 (旨み成分と栄養成分を保持した無洗米事件:知高判平29.12.21)
1.プロダクト・バイ・プロセス(PBP)クレームとは、一般に、物の発明について、製造方法が記載されたクレーム(特許請求の範囲)をいう。特許法では、発明の対象は、物の発明、方法の発明、製造方法の発明と定められているが、PBPクレームは、物の発明になる。例えば、製造方法Aより形成された物B(200℃~300℃の窒素雰囲気中で熱処理された半導体素子)というものである。
2.平成27年6月5日、最高裁は、PBPクレームに関し、2つの重要な判決を言い渡した。
1つは、PBPクレームの技術的範囲についてであり、最高裁は、「特許発明の技術的範囲は、 当該製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物として確定されるものと解するのが相当である。」と判示したものである。これは、要するに、PBPクレームで、被疑侵害品が、製法が異なろうが、同一の構造の物であればクレームに含まれるというものである(いわゆる物同一性説)。
もう1つは、PBPクレームの特許性(有効性)に関するものである。PBPクレームについては、物の発明であるにもかかわらず、製造方法の記載があると、製造方法の記載が物の構造や特性との関係が不明であるため、明確性要件(特許法36条6項2号)のPBPクレームが特許性を有する(有効である)というためには、「出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られる」と判示したのである。すなわち、最高裁は、PBPクレームについて、原則として特許性がない(無効である)と判示し、そのうえで、例外的に、構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときには、特許性がある(有効である)と判示した。
3.ところが、知財高裁平成29年12月21日判決は、PBPクレームの有効性について、以下のとおり判示した。
「特許請求の範囲に物の製造方法が記載されている場合であっても、上記一般的な場合と異なり、当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識から一義的に明らかな場合には、第三者の利益が不当に害されることはないから、明確性要件違反には当たらない。」(下線付加)
そのうえで、具体的なあてはめにおいて、「本件訂正後の特許請求の範囲請求項1の「摩擦式精米機により搗精され」という記載は、本件発明に係る無洗米の前段階である前記ウ⒜⒝の構造又は特性を有する精白米を製造する際に摩擦式精米機を用いることを意味するものであり、「無洗米機(21)にて」という記載は、上記精白米から前記ウ⒞の構造又は特性を有する無洗米を製造する際に無洗米機を用いることを意味するものであって、前記ウ⒜ないし⒞のほかに本件発明に係る無洗米の構造又は特性を表すものではないと解するのが相当である。
そして、本件発明に係る無洗米とは、玄米粒の表層部から糊粉細胞層までが除去され、亜糊粉細胞層が米粒の表面に露出し、米粒の50%以上に「胚芽の表面部を削りとられた胚芽」又は「胚盤」が残っており、糊粉細胞層の中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で米粒の表面に付着している「肌ヌカ」が分離除去された米であるといえる。
そうすると、請求項1に「摩擦式精米機により搗精され」及び「無洗米機(21)にて」という製造方法が記載されているとしても、本件発明に係る無洗米のどのような構造又は特性を表しているのかは、特許請求の範囲及び本件明細書の記載から一義的に明らかである。よって、請求項1の上記記載が明確性要件に違反するということはできない。」と判示した。
4.PBPクレームの有効性に関する上記の最高裁判決(後者)は、PBPクレームが、原則として特許性がない(無効である)というものであり、PBPクレームが事実上特許として利用価値がないというに等しいものであった。
ところが、上記知財高裁判決では、製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識から一義的に明らかであれば、明確性要件違反にはならないと判示して、PBPクレームの特許性(有効性)についての道を残したのである。
当該判決が、さらに最高裁でどのように判断されるかは予断を許さないが、PBPクレームの特許性(有効性)を肯定的に捉えるものとした点で、非常に注目されるものである。
(参考)
知高判平29.12.21(最高裁判所ホームページ)
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