第11回 製造物責任規定について

工業製品などの製造物に関する企業間の契約(継続的売買契約、製造委託契約、OEM契約等)において、当該製品につき第三者から製造物責任を問われた場合の契約当事者間における責任分配(免責・責任軽減を含む。)についての規定が置かれることがよくある。

このような規定は、両当事者の利害に関係するが、多くの場合、製造流通過程の下流に位置する契約当事者にとって特に重要といえる。

すなわち、製造物責任法上、ある業者に対する製造物責任の追及は、当該業者が製造物を流通に置いた時点(通常は出荷時)で当該製造物に損害発生の原因となった欠陥が内在したことが主張立証された場合にのみ可能である。川上の業者が出荷した製造物(部品を含む。)に欠陥があった場合には、これを用いて川下の業者が製造又は加工のうえ出荷した製造物にも当該欠陥が引き継がれることになるだろうが、その逆は成り立たない。

したがって、被害者は、責任追及の相手方として、一次的には、ある程度の賠償能力が見込める製造者等のうち、製造流通過程のできる限り下流側に位置する業者を選択することが通常である。

この場合、被害者に対して製造物責任を負うこととなった業者が、川上の業者に対して求償権を行使することは法律上可能である。法律構成としては、契約に基づく良品供給義務の不履行、不法行為、製造物責任などが考えられるだろう。

ただ、いずれの法律構成を採るにせよ、求償が必ず認められる保証はない。製造物責任法上、製造物が通常有すべき安全性を欠くといえれば欠陥を肯定し得るのであり、欠陥の主張立証責任が一定程度緩和されているが、これにより最大の恩恵を受けるのは事故により直接損害を被った被害者であり、製造物責任を問われた業者が求償する際には、大抵の場合、主張立証責任のハードルは大なり小なり引き上げられるのである。

要するに、製造流通過程の下流に位置する契約当事者は、第三者に対する製造物責任に関して、初めから他方当事者より不利な立場に置かれているのであり、川下側の当事者にとって製造物責任に関して規定を設けて責任軽減を図ることが特に重要となるのである。

例えば、川下側の当事者が製造・加工に一切関与しない場合(輸入業者、表示製造業者の場合など)、当該当事者としては、設計又は製造上の欠陥については他方当事者に対する全額求償を可能とする旨の約定を取り付けることを目指すべきであろう。

また、川下側の当事者が他方当事者から部品Aの供給を受け、これを用いて製品を製造するという場合には、当該当事者としては、少なくとも部品Aに起因する当該製造の欠陥については他方当事者への全額求償を可能とする旨の約定を取り付けることを目指すべきであろう。もっとも、当該製品に部品Aのほかに部品Bが使用されており、当該製造の欠陥が部品Aと部品Bのいずれに起因するか最後まで不明であるような場合、上記のような約定をもってしても他方当事者に対する求償は困難な場合が少なくない。PL保険への加入など他のリスク軽減策も検討されるべきであろう。

なお、単なる販売店・代理店は製造物責任法の責任主体とはならないので、販売店契約や代理店契約には製造物責任に関する規定を置かないことが一般的である(但し、これは日本の製造物責任法の話である。例えば、米国では、単なる販売業者も責任主体に含まれることがある)。


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執筆者

弁護士 池上 慶