第2回 人員削減(リストラ)(2)~法定事由2~
Q:上海市所在の独資企業X社は、これまで自社工場において製品を製造し販売してきましたが、思うように利益が上がらないことから、製造よりも販売に力を入れる経営方針に転換し、製造についてはできる限り外部に委託することを考えています。また、当該方針転換に伴い、これまで製造に従事していた一部の従業員を営業又は総務等に配置転換することなどを考えていますが、それでもなお余剰人員が生じることが想定されます。
上記のとおり余剰人員が生まれる場合、人員削減に関する労働契約法の規定に従って人員削減を実施できるでしょうか?
A:X社は、具体的な事情により、「企業の・・・経営方式の調整により、労働契約の変更後もなお人員削減の必要がある場合」との事由に基づいて人員削減を実施しうると考えます。
解説
1 人員削減(リストラ)の法定事由
(1)企業の生産の転換等による人員削減
労働契約法(以下「本法」といいます)第41条は、人員削減による従業員との労働契約解除について規定しており、解除が可能となる人員削減の法定事由として以下のものを定めています。
①企業破産法の規定に従い更生を実施する場合
②生産経営に重大な困難が生じた場合
③企業の生産の転換、重大な技術革新又は経営方式の調整により、労働契約の変更後もなお人員削減の必要がある場合
④その他、労働契約締結時に拠り所とした客観的経済状況に重大な変化が生じたため、労働契約の履行が不可能になった場合
本件でX社が検討している人員削減は、以下で検討するとおり、上記のうち③(以下「法定事由③」といいます)に該当しうると思われます。
(2)法定事由③に基づく人員削減
法定事由③では以下の各要件を規定しています。
ア 以下のいずれかの状況が存在すること
ⅰ 生産の転換
ⅱ 重大な技術革新
ⅲ 経営方式の調整
イ アの状況による労働契約の変更後もなお人員削減の必要があること
【ア 上記ⅰ~ⅲの状況について】
まず、全国的に適用される法令法規においても、上海市のみで適用される地方法規においても、上記ⅰ~ⅲの各状況の具体的な内容について規定したものはありません。
このため、各状況をいかに解釈すべきかについて、上海市のある区の労働当局(人力資源及び社会保障局)に電話にてヒアリングを行ったところ、「各個別の案件は異なるものであり、判断基準も同じにはならないと思われるが、参考のために簡単な意見を提供する」との前置きをした上で、以下のとおり各状況についての例示がありました。
ⅰ 生産の転換→例えば、遅れた生産能力の除去、製品のアップグレード、低技術製品の生産から高技術製品の生産への変更等
ⅱ 重大な技術革新→例えば、生産ラインのアップグレードや技術改革等
ⅲ 経営方式の調整→例えば、自社生産から外注生産への変更等
近時の裁判例においても、各状況のいずれかの存在に言及しつつ、人員削減を適法としたものがあります。
【イ アの状況による労働契約の変更後もなお人員削減の必要があること】
まず、全国的に適用される法令法規においても、上海市のみで適用される地方法規においても、本要件の具体的な内容について規定したものはありません。
もっとも、本要件が必要とされる理由については一般的に、上記ⅰ~ⅲの状況がある場合であっても直ちに使用者による人員削減が認められるわけではなく、例えば労働者の従前の職務がなくなったり、又は新しい技能の要求に適応できなかったりしても、その他の職務や部署への調整が可能であるためであると解釈されています。このため、「なお人員削減の必要があること」という本要件が認められるためには、対象となる労働者が他の業務や部署への調整もできない状況である必要があると考えられます。
近時の裁判例においても、使用者側が本要件を立証できていないことにも言及した上で、違法な労働契約の解除であるとの認定を行ったものがあります。
なお、本要件における労働契約の変更と人員削減実施とのタイミングについては、何か制限があるでしょうか?
この点につきましても法令法規には規定がないため、上海市及び上記アと同じ区の労働当局(人力資源及び社会保障局)に電話にてヒアリングを行ったところ、上海市の労働当局からは「実務上一定期間の間隔を要求することはない」旨の回答が、上記区の労働当局からは「人員削減ができるか否かは、人員削減の条件に達しているかで決められ、時間的な間隔とは関係がない。仮に人員削減の条件に達していれば、たとえ時間的な間隔が短くてもよいと理解できる」旨の回答がありました。
このように、実務上、労働契約の変更と人員削減実施とのタイミングについては特段制限がないと考えられます。
2 本件
X社は、経営方針を転換し、製造についてはできる限り外部に委託することを考えているとのことであるところ、この点は「経営方式の調整」(上記1(2)アの要件)に該当すると考えられます。
また、X社は、当該方針転換に伴い、これまで製造に従事していた一部の従業員を営業又は総務等に配置転換することなどを考えていますが、それでもなお余剰人員が生じることが想定されるとのことです。仮にそうであれば、配置転換ができなかった余剰労働者については、「アの状況による労働契約の変更後もなお人員削減の必要があること」(上記1(2)イの要件)に該当すると考えられます。
以上のことから、X社は法定事由③を満たしうると考えられ、これに加えて人数の要件をも満たすようであれば、人員削減を実施できると考えられます。
*本記事は、一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。
*本記事は、Mizuho China Weekly News(第742号)に寄稿した記事です。