第23回 使用者からの労働契約の解除(16)~労働契約の解除不可事由6~

Q:上海市所在の独資企業X社(従業員300人規模)は、生産型企業として、自社工場で製品を製造し販売してきました。しかし、昨年から業績が急激に悪化しているため、一部生産ラインの廃止、及びこれに伴う整理解雇を実施予定であり、現在整理解雇の対象候補者の選定を行っています。
以下の従業員A及びBについて、整理解雇の対象とできるでしょうか?

従業員A:業務上の負傷の療養のための休業後、30日が経過前である者(労働能力の喪失はない)
従業員B:労働組合の主席の任期期間中である者

A:Aについては整理解雇の対象にできると考えますが、Bについては原則として整理解雇の対象にできないと考えます。

解説

1 労働契約の解除不可事由について
(1)各解除不可事由
 労働契約法(以下「本法」といいます)第42条は、使用者からの労働契約の解除のうち、即時解除(本法第39条)を除く、予告解除(本法第40条)及び整理解雇(本法第41条)に関し、たとえ労働者に法定の労働契約解除事由が存在したとしても、以下の①~⑥のいずれかの事由が存在する場合には労働契約を解除してはならないと規定しています。

➀職業病の危害に触れる業務に従事した労働者に離職前職業健康診断を行わず、又は職業病が疑われる病人で診断中もしくは医学観察期間にある場合
②当該使用者において職業病を患い、又は労災により負傷し、かつ労働能力の喪失もしくは一部喪失が確認された場合
③病を患い、又は業務外の理由で負傷し、規定の医療期間内にある場合
④女性従業員が妊娠、出産、授乳期間にある場合
➄当該使用者の下において勤続満15年以上で、かつ法定の定年退職年齢まで残り5年未満である場合
法律、行政法規に規定するその他の場合

 本件では、A及びBは、上記①~⑤には直接該当しませんので、上記⑥の「法律、行政法規に規定するその他の場合」(以下「解除不可事由⑥」といいます)に、いかなるものが含まれるかが問題となります。

(2)解除不可事由⑥に含まれる規定
 本件に関連する現行の法令を確認したところ、解除不可事由⑥に直接的に含まれると考えられる規定として以下の2つが挙げられます。なお、中国には、業務上の負傷の療養のための休業後、30日が経過前の者について、労働契約の解除を制限する規定はありませんでした。

ア 労働組合法(以下「労組法」といいます)第18条
 労組法第18条は、労働組合の主席、副主席又は委員について、就任の日からその労働契約期間が自動的に延長されることを規定しています。
 当該条項の趣旨は、労働組合の主席等についてその任期期間中の身分を保障することにあり、労働契約期間が延長されている間は、労働契約の解除もできないとの解釈が可能です。
 実際の裁判例でも、使用者側から従業員との労働契約の解除を行おうとしたところ、解除の対象者が労働組合の委員であったため、労組法第18条の規定を根拠に挙げた上で、使用者からの解除を違法と判断したもの[5]があります。

 なお、任期延長の例外として、主席等に任期において重大な過失があった場合又は法定の定年退職年齢に達した場合はこの限りではないとされています(労組法第18条但書)。労働契約の解除との関係で言えば、主席等に重大な過失[6]があった場合には、使用者側からの解除が可能ということになります。

イ 集団契約規定第28条
 中国には、各従業員と締結する個別の労働契約の他に、使用者と従業員の協議代表との交渉を経て締結され、全従業員との間で法的効力が発生する集団契約が存在します。
 当該集団契約の従業員側の協議代表は、アで言及した労働組合の主席等と似た立場にあるため、集団契約規定でもその身分が保障されています。すなわち、集団契約規定第28条は、従業員側の協議代表について、その職責の履行が完了するまでは、原則として労働契約を解除してはならないと規定しています(集団契約規定第28条)。

 なお、例外的に労働契約の解除が可能とされている事由は、アで言及した労働組合の主席等とほぼ同じです

2 本件
 本件では、まず、Aについては、労働契約の解除不可事由の①~⑤のいずれにも該当せず(解除不可事由の③については、Aは既に療養のための休業が終了しているため該当せず、解除不可事由の②については、Aには労働能力の喪失がないことから該当しません)、また中国には、日本のように、業務上の負傷の療養のための休業後30日が経過前の者について労働契約の解除を制限する規定もなく、解除不可事由⑥にも該当しません。

 次に、Bについては、労働組合の主席の任期期間中であることから、解除不可事由⑥に含まれる、労組法第18条が規定する労働契約を解除できない事由に該当します。

 以上のことから、Aについては整理解雇の対象にできると考えますが、Bについては原則として整理解雇の対象にできないと考えます。


*本記事は、一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

*本記事は、Mizuho China Weekly News(第784号)に寄稿した記事です。