第14回 会社行為における取締役及び役員の責任
皆さん、こんにちは。Poblacionです。
今回は取締役及び役員の責任についてお話ししましょう。
法人とは人為的存在に過ぎませんので、当然ながら、その権能は取締役及び役員を通じて行使されます。ただし、取締役や役員が会社を代表して交渉や契約に署名したからと言って、自動的にその取締役及び役員が会社による取引の当事者になるわけではありません。取締役及び役員が会社を代表して適切に負った義務は全て、会社が単独で責任を負うことになります。
上記の通り、会社の債務について取締役及び役員に連帯責任を負わせることはできないという理由から、取締役及び役員に対して提起された訴訟が最高裁判所によって却下された事例が数多くあります。Ever Electrical Manufacturing, Inc.対 Samahang Manggagawang Ever Electrical事件(G.R. No. 194795, June 13, 2012)において裁判所は、閉鎖された会社の社長に対し社長の個人財産から従業員の退職金を支払うよう強制することはできない、と判断しました。不幸にも会社の破綻を招くことになった会社の経営において、社長が積極的に役割を果たしていたとしても、そのことだけで連帯責任を負わされることはありません。犯意又は悪意(社長が故意にリスクの高い取引を締結し、事業の閉鎖及び従業員の解雇という事態を招いたこと等)が立証されない限り、従業員の退職金を負担する義務を負うのはその会社だけとなります。Solidbank Corporation対Mindanao Ferroalloy Corporation事件(G.R. No. 153535, July 28, 2005)において裁判所は、職務上の権能において会社を代表し融資交渉をした社長/取締役会長に対し、会社による債務不履行の責任を負わせることはできない、と判断しました。同様に、会社の代表者として融資契約に署名しただけの役員を、会社の債務の連帯保証人又は保証人とみなすこともできません。
しかし、当然ながら、原則には例外があります。フィリピン法上、以下の場合、取締役及び役員本人が直接責任を負わされる可能性があります。
①取締役又は役員が、
(a) 故意に、あるいは事実を知りながら、会社による明らかな不法行為に賛成票を投じた、あるいは同意した場合、
(b) 会社業務の指示にあたり、悪意又は重大な過失による行為をした場合、
(c) 利益相反の罪を犯し、会社、株主又はその他の人に損害をもたらした場合
取締役及び役員は、最大限の信用と信頼を担う立場にあるため、彼らは会社と株主の双方に対して信認義務を負い、会社の事業経営において忠誠心をもち正直かつ誠実に行為することが期待されています。
上記のことから、不適切な、あるいは過失のある行為を理由として、裁判所が取締役及び役員に個人的責任を負わせた事例も数多くあります。例えば、Magaling対Ong事件(G.R. No. 173333, August 13, 2008)では、破産した会社の債務について社長が個人的に責任を負わされました。会社の事業経営において社長に重大な過失があった、と裁判所が判断したためです。会社が支払不能に陥った際、社長は職を辞しただけで、何の手立ても講じず、会社の破産について株主に通知することも、会社の残余資産を保護するための措置を取ることもしなかったためです。会社の取締役社長でありながら会社の経営について何も把握しておらず、裁判所から命令された財務書類の提出もできませんでした。こうしたことから裁判所は、社長が会社の債務に関して連帯責任及び単独責任を負うべきであると判断しました。
②取締役又は役員が水割株の発行に同意、又はその発行を知りながら会社秘書役に反論書を提出しなかった場合
水割株とは、額面価格又は発行価格を下回る金額を対価として発行される株式のことを言います。たとえば、Aという人物が、1株当たりの額面価格が1ペソのB社株を5,000,000株取得したとします。Aはその株の対価として、一筆の土地を会社に譲渡しました。これにあたり、Aと取締役Cは、その土地の公正価格が1,000,000ペソに過ぎないことを知っていたとします。この場合、Aに発行された株は「水割株」ということになります。
株の水割は、会社が必要とする資本を会社から奪うものであるため禁止されている行為です。株の水割により、株の取得に正当な対価を支払った株主も損害を被ることになり、会社におけるこれら株主の持分は希釈化されます。株の水割が会社の財務諸表の虚偽記載(たとえば、水割株の対価として支払われた資産の価格引き上げ)につながることもしばしばあり、これによって一般公衆も損害を被ります。
取締役又は役員が、水割株の発行に同意した場合、あるいはその事実を知りながら書面で反論を表明しなかった場合、株の額面価格又は発行価格と支払われた株の対価との差額について、当該取締役又は役員が支払責任を負うことになります。上記の例で言いますと、A及び取締役Cは、株の額面価格(5,000,000ペソ)と支払われた対価(1,000,000ペソ)の差額にあたる4,000,000ペソを支払う連帯責任を負うことになります。
③本人が、単独又は会社と連帯で責任を負うことを自ら引受けた場合
取締役及び役員が自発的に会社の債務を引受けることは、一切妨げられません。実際、債権者からの要求で、会社が締結する融資契約に取締役及び(又は)役員が連名で署名すること、あるいは会社が債務不履行となった場合に保証人となることもあります。
④取締役又は役員が、法の明文規定に基づき、会社行為について個人的に責任を負わされる場合
会社の犯した違法行為について取締役又は役員に責任を負わせる様々な法律が存在しており、そのほとんどが刑法の性質を有するものです。たとえば、会社が国籍制限に違反した場合は、反ダミー法に基づき、会社の社長、マネージャー又は担当者が、刑事責任を問われます。会社がマネーロンダリングという犯罪行為をした場合は、資金洗浄防止法に基づき、犯罪に加担した、あるいはこれを許した責任者である役員が、懲役刑及び(又は)罰金刑が科せられます。
*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。