第27回 フィリピンに支店を設立する際の11のステップ
皆さんこんにちは、Poblacionです。以前のコラム(第24回)で、フィリピンにおいて子会社を設立する際のステップについてお話しました。今回は、フィリピンへの進出を希望する外国企業が利用する別の投資形態、すなわち支店の設立についてお話しましょう。
まず、支店と子会社はどう違うのでしょうか。支店は、外国企業の単なる拡張企業とみなされるため、内国企業である子会社のような独立した法人格を持ちません。従って、支店の債務及び不履行の全てについて、本国の企業が直接的に責任を負わされる可能性があります。また、もう1つの大きな違いとして、支店の場合には、フィリピン国内における債務の支払能力を保証するため、証券取引委員会(SEC)に有価証券を預託することが要求されますが、内国企業には、そのような預託義務はありません。
一方、フィリピンに支店を置くことによるメリットもあります。まず、内国企業の場合には全世界における所得が課税対象となるのに対し、支店の場合には、フィリピン国内における所得のみが課税対象となります。さらに支店の場合、5名で構成する取締役会を設置する必要はなく、居住者である代理人が1名(通常は総支配人)いればよいとされています。
フィリピンに支店を設立するステップは、以下のとおりです。
ステップ 1:支店名称の確保
申請人はまず、他の企業による同一名称の重複利用を回避するため、支店が使用を予定している名称を予め申請し、確保しなければなりません。名称が確保できるとSECから名称確認書が発行されます。名称の確保にかかる費用は僅かです。
ステップ 2:申請書の記入
申請人の授権代表者は、SEC書式F-130(外国企業によるフィリピン支店設立申請書)に必要事項を記入する必要があります。書式は、こちらから入手できます。
ステップ 3:必要書類の作成
申請人には、申請の裏付書類として、下記書類の提出が要求されます。
①取締役会決議
本国の企業の取締役会決議において、(a) フィリピン国内の支店設立を承認し、(b) 本国の企業に代わり法的書面の送達を受ける居住者代理人を指名し、かつ (c) 居住者代理人が不在の場合、又はフィリピンでの営業を停止した場合、法的書面の一切をSECに送達してよいことを定める決議
②定款
本国の企業の定款(英語以外の言語の場合、英訳を添付する)
③財務諸表
本国の公認会計士による監査済みの前年度財務諸表
(フィリピン以外で作成された書面は全て、その作成地におけるフィリピン大使館又は総領事館による公証を受けたものでなければならない)
ステップ 4:財務比率の遵守
支店にフィリピン国内における債務の支払能力があることの保証として、SECは、本国の企業が下記の財務比率を満たしているかどうかを確認します。
比率 |
計算式 |
基準値 |
総負債比率 |
総資産÷総負債 |
1:1 |
流動比率 |
流動資産÷流動負債 |
1:1 |
負債比率 |
総負債÷自己資本 |
3:1 |
ステップ 5:認証付外国送金証明の確保
原則として、フィリピン国内企業として活動することを計画している支店には、20万米ドル以上の持込資本金がなければなりません。支店の運転資金は、本国の企業からフィリピンに外国送金されます。申請人は、かかる送金の証明書(通常、資金の送金を行った現地の銀行が発行する外国送金証明書)の提出が要求されます。ただし、支店が輸出企業として設立される場合には、要求される持込資本金の最低額は少額で、5,000ペソになります。
ステップ 6:居住者代理人の受任の確立
前述のとおり、支店には居住者代理人が必要となります。居住者代理人を務めることができるのは、(a) フィリピンに居住し、善き性格と健全な財務状態を備えた個人、又は(b) フィリピンで事業活動をしている内国企業になります。また、居住者代理人が申請書の署名者でない場合には、居住者代理人による受任証明書の提出が必要です。
ステップ 7:特別要件への従順
内国企業の場合と同様に、支店が規制対象の活動を行なう場合、あるいは投資奨励措置を受ける場合にはまず、管轄の規制当局の承認を得る必要があります。
ステップ 8:事前承認
SECに書面を提出し、事前に承認を受けます。書面に不備又は大きな誤りがあった場合には、不備の補完や誤りの是正がSEC職員から求められます。
ステップ 9:申請料の支払い
書類が整うと、申請料の支払いが必要になります。申請料の金額は、実際に行った外国送金額の1%に相当する金額となります(ただし、2,000ペソを最低額とする)。これに、法的調査費用として、申請料の1%の10分の1(ただし、10ペソを最低額とする)が上乗せされます。
ステップ 10:実体審査後、許可書の発行
その後書面はSECに提出され、実体審査が行われます。書面が適切であれば、SECからフィリピンにおける事業許可書が発行されます。
ステップ 11:有価証券の預託
本国の企業がフィリピンにおける債務の支払い能力を有していることをさらに保証するため、許可書の発行から60日以内に有価証券をSECに預託することが、支店に要求されます。証券は、国債でも株式でも認められますが、当初の時点で実際の市場価格が10万ペソ以上でなければなりません(次年度以降の総所得額次第では、追加証券の預託が支店に要求される場合もあります)。なお、支店がフィリピンから撤退する際には、その証券は返還されます。
なお、上述のSECにおける登録手続以外にもフィリピンで完全かつ合法的に事業を遂行するためには必要な許可や承認を他の政府機関から取得する必要がありますのでご留意ください。
*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。