第48回 恋愛は従業員の解雇理由になるでしょうか?

皆さん、こんにちは。Poblacionです。

今朝、私は職場に向かう途中でリアーナの「We Found Love(…♪♪ we found love in a hopeless place ♪♪…)」を聞いていました。私の主人はいつも、この歌は職場恋愛中のカップルを讃える歌だ、なぜって彼らは「希望のない場所で愛を見つけた(found love in a hopeless place)」んだから、と冗談を言います。実際、職場とは大切な人を見つけることが出来る一般的な場所のうちの1つです。私自身、職場や仕事を通じて出会い、幸せな結婚をしたカップルをたくさん知っています。

通常であれば、従業員のプライベートな生活や恋愛事情に会社が関心を寄せることはありませんが、その相手や交際によっては、従業員が労務上の大きな問題に陥る場合もあります。そこで今回は、おもしろい話題 − 恋に落ちたことを理由に解雇されることはあるのか?− について話してみましょう。

フィリピンの労働法上、交際や職場恋愛が解雇理由に挙げられていないのは明らかです。従業員が自分のプライベートな生活を個人的な範囲に留め、使用者の事業に損害を与えるような行為をしない限り、使用者が従業員の恋愛に口出しすることはありません。

この問題に関してよく取り上げられるのが Chua-Qua 対 Clave 事件(G.R. No. 49549, 30 August 1990)です。この事件は、30歳の女性教師が16歳の生徒と恋に落ち、後々結婚した、というものでした。学校側は、その教師の行為は「学校の最大の利益に反するものであり、その高い倫理観を失墜させるものである」と主張して非難し、最終的にはその教師を解雇しました。しかし、最高裁判所は、その教師が不道徳な行動を取った証拠も、教師という立場を利用して生徒に言い寄った証拠もないとして、その解雇を不当としました。裁判所の巧みな表現を借りれば、「二人が、その年齢や学識レベルの差にもかかわらず最終的に恋に落ちたのであれば、このことは、心には頭ではわからない理由がある、という明らかな真実」を示したに過ぎません。

ある行為が使用者の利益を損なうものであるか否かの判断は客観的に行なわなければなりません。実際、最近のLeus 対 St. Scholastica’s College Westgrove 事件(G.R. No. 187226, 28 January 2015)において最高裁判所は、婚姻外の妊娠をした事務職員を解雇したカソリック学校の行為を無効と宣言しました。学校には、不祥事や不道徳な行為を理由に職員を解雇する権利はあるが、その行為についての判断は、一般的な(世間の)基準と適用法に照らしてなされるべき、としました。この事件では、妊娠した職員もその子供の父親もいずれも独身であった(実際、二人はその後結婚しました)ことから妊娠が不道徳な行為とは言えない上に、未婚のまま母親になることを罰する法律も、独身同士が同意の上で性的関係を持つことを禁止する法律もありません。その職員の無分別な行為により学校に重大なスキャンダルがもたらされたことや、道徳的価値を教える学校としての地位に傷がついたことを証明する実質的証拠の提出もありませんでした。実際、その職員は教職についてもおらず、生徒達との関わりもかなり限定されていました。これらのことから、学校によるその職員の解雇は、管理権の行使として無効であり、職の確保という職員の権利の侵害にあたる、と判断されました。

夫婦が同じ職場で働くことを会社のポリシーとして禁止している会社もありますが、Star Paper Corporation 対 Simbol事件(G.R. No. 164774, 12 April 2006)において最高裁判所は、事業上合理的に必要でない限り、そのようなポリシーは有効ではない、と判断しました。これにより、この事件では夫婦関係にある従業員は仕事の効率性が低下すると危ぶまれることのみを理由として、使用者がそのような従業員に退職を強制することはできない、と判断されました。一方、Duncan Association of Detailman-PTGWO 対 Glaxo Wellcome Philippines, Inc. 事件(G.R. No. 162994, 17 September 2004)では、従業員が競合他社の従業員と結婚することを禁止している会社のポリシーについて、有効との宣言が裁判所によってなされました。使用者には、競合他社から自社の営業秘密や機密情報を保護する権利がある、という理由です。使用者による結婚の禁止は、競合他社が自社の秘密や手順にアクセスできないようにして、自社の利益を保護しようとしたに過ぎない、とされました。

恋愛により、従業員が不道徳な又は違法な行為をしたり、職場における重大な不正行為にあたる行為をしたりすることになった場合、結果的に解雇となる可能性は極めて高いでしょう。例えば、以下の事例では、裁判所は従業員の解雇を正当と認めました。

•業務時間中に会社施設内で同僚と性的関係を持った場合(Imasen Philippine Manufacturing Corporation v. Alcon, G.R. No. 194884, 22 October 2014)

•既婚者でありながら、同じく既婚者である同僚教師と性的関係を持った場合(Santos v. NLRC, G.R. No. 115795, 6 March 1998)

•部下に対して性的虐待をしようとした、あるいはセクシャルハラスメントをした場合(Formantes v. Duncan Pharmaceuticals Phils. Inc., G.R. No. 170661, 4 December 1999)

結局のところ、職場で恋に落ちて職場恋愛をすることには何も問題はないのです。ただ、従業員の恋愛事情が使用者の正当な利益を妨害したり毀損したりする場合には、使用者が心の問題に踏み込み、干渉してくることもありうるでしょう。


*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。