第59回 老後に備える

皆さん、こんにちは。Poblacionです。最近、保険会社から退職後に備えるための各種保険商品の勧誘メールがたくさん届きます。私も歳を重ねたということなのでしょう!自分では、まだまだ若いし(ずっと)先のことだと思っていますが、退職したら世界中を旅行したいという思いはありますし、海辺にこぢんまりとした家を買ってそこで暮らしたいとも思います。理想は高く!だからこそ、今からでももっと貯蓄をした方が(そして、お買い物を控えた方が!)いいでしょう。

有難いことに、フィリピンで仕事をしているとフィリピンの労働法に基づき、資格のある従業員には退職手当が支給されます。退職手当がかなり大きい金額になり、夢のマイホームや新車やおおがかり豪華な海外旅行のための十分な資金になることもあるでしょう。

今回はその退職手当についてお話しましょう。

退職年齢は何歳から?

フィリピンの労働法上、従業員は、年齢が60歳に達した時点で早期退職することができ、65歳に達した時点で定年退職となります。ただし、法定の退職年齢には、以下に挙げる場合のような例外もあります。

・地下鉱山作業員は、危険な労働条件であるため、50歳に達した時点で早期退職することができます。鉱山作業員の定年は60歳です。

・雇用主と従業員の間で、より低い退職年齢について合意することもでき、その場合は、合意内容を会社の退職制度又は労働協約に具体的に記載します。

退職手当の受給資格に勤続年数の条件はありますか?

あります。定年退職の年齢に達した従業員は、勤続年数が5年以上の場合、退職手当を受給することができます。例外的に、退職手当の支給条件として、より長い勤続年数(例えば10年)を会社の退職制度で定めることもできます。

退職金の最低支給額は?

退職金の最低支給額は、従業員の給与2分の1(1/2)ヶ月分に、会社における勤続年数をかけた数字の金額になります。6ヶ月以上1年未満の端数となる期間は、丸1年とみなします。退職手当の計算には、従業員の直近の給与額をベースとして使います。従業員の給与とは、雇用主がその従業員に支払った報酬の全て(13ヶ月手当の一部や有給休暇相当額も含む)が含まれます。ただし、歩合給や賞与の他、従業員の本給に含まれるとみなされない手当は含まれません。

当然ながら、雇用主が法規定を上回る退職手当を支給することには何の問題もありません。

資格のある従業員に退職手当を支給するのは全雇用主の義務ですか?

原則として、雇用主は全て、資格のある従業員に対して退職手当を支給する義務を負います。例外として、従業員数が10名以下の小売業、サービス業及び農業の事業主には、退職手当の支給義務が免除されています。

外国人従業員にも退職手当の受給資格はありますか?

あります。退職手当は、年齢と勤続年数という2つの要件さえ満たしていれば、役職、職務、職位にかかわらず、民間企業の全従業員に給付されます。従って、外国人従業員であっても退職手当を受給することができます。

退職手当は所得税の課税対象ですか?

場合によります。会社に退職制度がない場合に、退職する従業員が法定の退職年齢(60歳から65歳)に達しており、勤続5年以上であれば、退職手当は免税となります。退職従業員が年齢と勤続年数の要件を満たしていないにもかかわらず退職手当が支給された場合は、課税対象となります。

一方、会社の退職制度に規定された手当が法律上の最低条件を上回っている場合(たとえば、勤続年数1年につき給与2分の1ヶ月分より高額の退職手当)、下記の要件が全て満たされているときに限り、退職手当は免税となります。

・退職制度が合理的なものであり、内国歳入庁(BIR)の承認を受けていること

・従業員が退職時に50歳以上であること

・従業員の勤続年数が10年以上であること

・従業員が以前同じ雇用主又は別の雇用主の退職制度による給付を受けていないこと

退職制度の設立は義務ですか?

いいえ。雇用主が資格のある従業員の退職時に退職手当を支給している限り、必ずしも正式な退職制度の設立は必要ありません。

ただし、退職制度の設立には、以下に挙げるようなメリットもあります。

・事業主による退職手当の支給条件決定に融通性が得られます。たとえば、年齢の若い、あるいは一定期間勤続した従業員を退職させる権利を雇用主に認めている退職制度が、裁判所によって有効とされた事例がいくつかあります。

・退職制度がBIRの承認を受けている場合、雇用主には、従業員に対して免税の範囲で与えられる退職金の給付額を、法の規定よりも大きい金額にする道が残されます。

・一定の条件を満たしている場合、雇用主の退職手当拠出金を会社の総所得から控除し、課税対象額を減額することができます。

・雇用主が退職手当基金を設立し、これがBIRの承認を受けている場合、基金の資金運用による所得が免税となります。

退職手当基金の設立は必要?

雇用主による退職手当基金の設立は法律上要求されているものではありません。重要なのは、資格のある従業員の退職時に、雇用主が退職手当を支給できるということです。その資金源が何であるかは問いません。

しかし、事前に退職手当基金を設立し、将来の退職手当支給のために毎月積み立てておくのが一般的な慣行となっています。そうすることにより、将来従業員の退職が始まったときにキャッシュフローの問題を心配しなくて済みます。多くのフィリピン企業が、退職手当基金の運営を銀行や保険会社に委託するという選択もしています。

雇用主が退職手当の支給を拒否した場合に、従業員ができることは?

従業員は、雇用主に退職手当の支給を命じることを求めて労働裁判所に訴訟を提起すること以外に、労働法違反を理由として雇用主を刑事告訴することもできます。雇用主が有罪と判断された場合、3ヶ月から3年の懲役及び1,000ペソから10,000ペソの罰金が科される可能性があります。

以上のことから、もしあなたがフィリピンで事業経営をしていたら、資格のある従業員に退職手当を支給する義務を負っていることを忘れないでくださいね!


*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。