第62回 脱税について知っておくべきこと

皆さん、こんにちは。Poblacionです。ご存知かもしれませんが、2015年APEC(アジア太平洋経済協力)会議の開催国はフィリピンでした。11月にはマニラ首都圏でAPEC首脳会議が開催されました。首脳会議はAPEC会議のハイライトで、APEC参加国・地域のリーダー達が参加しました。

首脳会議が開催された週はフィリピンにとって忙しい週になりました。マニラ首都圏は、会議開催前から閉鎖状態となり、政府発表に応じて公立も民間も含め学校は休校となり、企業も休業となりました。住民と各国代表者両方の安全を確保するためです。幹線道路も通行止めとなり、国内線及び国際線のフライトも数百便キャンセルされました。APEC会議に参加する代表者達が、安全にフィリピンに到着し、また出発できるようにするためです。このような予防手段を講じたことにより、マニラ首都圏の住民には不便が生じたことと思いますが(会議前の数日間は、交通状況がさらに悪化したと聞きました)、APEC会議の開催国を務めたことによる利益は、短期的にも長期的にも、そうしたマイナス面を上回るものであったに違いないと私は考えます。

さて、今回はAPECと直接的には関係ありませんが、どの国でも非常に関心の高い問題、脱税の防止策についてお話しましょう。

脱税したら大変なことに!

昨今、内国歳入庁(BIR)は税の取立てに積極的になっており、反脱税キャンペーンを強化しています。BIRが脱税の疑いのある者を告発することはよく知られており、有名な企業や個人による税金詐欺を告発する事件の公表もしています。ちなみに、対象となった個人には、俳優や女優、プロスポーツ選手やアスリートも含まれます(あの有名なボクサー、マニー・パッキャオも!)。これらの積極的な行動は全て、重要なインフラや社会福祉の資金として必要な政府の税収を違法な手段で搾取する脱税者を許さない、というBIRの真剣な姿勢を世に知らしめるためのものです。

そもそも脱税とは何でしょう?脱税とは、合法的ではない手段で税金逃れをすることです。フィリピンの裁判所は、脱税事件において以下の3つの要素を検討します。

(1)達成しようとした目的、すなわち、税金の不納付又は過少申告があるか
(2)意思を伴っているか(「悪意」、「不誠実」又は「計画的であり偶発的ではない」のいずれかに該当すること)
(3)納税義務者が一連の違法行為をしているか

これら3つの要素の全てが揃っている場合、裁判所はその納税義務者に対して脱税罪を宣告します。

脱税を犯した納税義務者は、民事責任と刑事責任の両方を問われる可能性があります。BIRが、適正な金額の税を徴収しようと、その納税義務者に対する手続を適宜開始することもあります。有責と判断された納税義務者は、適正な税額分の納付義務を負うだけではなく、税額の50%に年利20%の利子を上乗せした金額の罰金も支払わなければなりません。また、BIRには、誤りを犯した納税義務者、又は(納税義務者が企業の場合は)責任を負う役員、パートナーもしくは従業員を刑事告発することも認められています。脱税という犯罪には、2年から4年の懲役及び30,000ペソから100,000ペソの罰金が科されます。

脱税が時効になるまでの期間は非常に長いです。特にBIRには、詐欺の発覚から10年の間であれば、適正な税額を査定し徴収する権限があります。また、脱税にかかわる行為には詐欺が伴うため、BIRは脱税事件について和解を認めていません。

BIR脱税撲滅( RATE)プログラム

2005年、BIRは、他の政府機関と協力して、脱税撲滅(RATE)プログラムを始動しました。これは、税金詐欺が疑われる個人や企業に対する調査や訴追の強化を目的としたものです。RATEプログラムの目標は、脱税が疑われる者だけではなく、税法上処罰の対象となる他の犯罪行為をした納税義務者についても、責任を追及することです。他の犯罪行為には、以下のものが含まれます。

・所得に関する犯罪

    1. 納税申告書の不提出
    2. 不納付
    3. 故意による、30%を超える所得額の過少申告
    4. 資産又は所得の隠匿又は名義変更
    5. 源泉徴収税の不納付

・控除に関する犯罪

    1. 故意による、30%を超える控除額の過大申告
    2. 個人経費の事業経費としての申告
    3. 虚偽の控除額申告

・その他違反行為
(a) 偽造したBIR発行書面の使用
(b) BIRへの登録の懈怠
(c) 二重帳簿
(d) 会計帳簿の虚偽記載

BIRは、2010年6月から2014年12月までの間に、327件のRATE事件を提起しました。これを税額で見積もると、合計で649億8000万ペソになります。これら327件のうち、現在司法省に係属中のものが283件、裁判所に係属中のものが39件あります。残りの5件は、最終処分の形で却下されました。

以上のことから、フィリピンで事業を行う場合は必ず、納税義務について十分に理解し、適正な税金をBIRに納めるようにしてください。そうしないと、(本来の納税額をはるかに上回る)高額な税金と罰金の支払義務を負うだけではなく、フィリピンの刑務所で過ごすことになるおそれもあるのでご注意下さい。


*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。