第78回 フィリピンの司法制度

89回 フィリピンの司法制度

皆さん、こんにちは。Poblacionです。今回は、4段階から構成されているフィリピンの司法制度について、簡単にご紹介しましょう。

(シャリーア裁判所というイスラム教の裁判所も、フィリピンの司法制度の一部です。また、厳密に言うと司法組織には含まれませんが、裁判所と同様の機能を果たす準司法機関として、労働裁判所等もあります。ただし今回のコラムでは、話をシンプルにするために、通常の裁判所についてのみ論じることにします。)

首都圏/自治体/自治体巡回裁判所(MTC

MTCは、司法責任の範囲が最も限定されている第一審裁判所です。首都圏裁判所とは、首都圏マニラのような首都圏地域にある第一審裁判所のことです。自治体裁判所とは、首都圏地域以外の市や自治体にある第一審裁判所です。そして、自治体巡回裁判所とは、法律に従ってまとめられた複数の市及び自治体における第一審裁判所です。MTCは、以下の事件の審理及び判決に関して管轄権を行使します。

・市又は自治体の条例違反
・罰則規定が6年以下の刑事事件及び刑事過失のかかわる犯罪
・訴額が40万ペソ(首都圏マニラの場合)又は30万ペソ(その他地域の場合)以下の民事事件
・不法侵入及び不法占有事件
・評価額が5万ペソ(首都圏マニラの場合)又は2万ペソ(その他地域の場合)以下の不動産がかかわる事件

地域裁判所(RTC

RTCは、一般的管轄権の裁判所です。その機能はMTCと同様ですが、権限の範囲はより広く、特に以下の事件の審理及び判決に関する権限があります。

・関連金額が40万ペソ(首都圏マニラの場合)もしくは30万ペソ(その他地域の場合)以下の民事訴訟、又は金銭的評価ができない事件
・婚姻及び婚姻関係のかかわる事件
・他の裁判所、審理廷又は人の専属的管轄権の範囲に含まれない事件
・評価額が5万ペソ(首都圏マニラの場合)又は2万ペソ(その他地域の場合)を超える不動産がかかわる事件
・MTC又はサンディガンバヤン裁判所の管轄権の範囲に含まれない事件
・MTCが判決を下した事件の控訴手続

特定の法律事件に特化するように指定された、家族法裁判所、商事裁判所及び麻薬裁判所等の特別なRTCもあります。

控訴裁判所(CA

CAは、その名称が示すとおり、RTCが下した判決に対する控訴手続を主に扱います。これに加え、準司法機関(中央労使関係委員会、証券取引委員会及び知的財産庁等)が決定を下した事件の審理又は控訴手続も扱います。

CAには、CAに直接提起された事件を審理する権限もあります。特別移送令状、人身保護令状等の発行が関連する事件がこれに含まれます。しかしながら、訴訟当事者は裁判所の階層を守るべきだというのが裁判所の方針であるため、そのようなケースは稀です。適切な下級裁判所(すなわち、MTC又はRTC)において救済を得ることが可能であれば、CAに(ましてや最高裁判所に)直接訴えても、受理されないのが通常です。

税控訴裁判所(CTA

CTAは、税金関連事件の控訴手続を専ら扱う裁判所で、その事件の性質が民事であるか刑事であるか、また、関連する税金が地方税であるか国税であるかについても問いません。CTAには、内国歳入庁(税法がかかわる事件の場合)又は関税局(関税法がかかわる事件の場合)等の行政機関が税金関連事件で下した決定に対する控訴手続を行う管轄権があり、さらにCTAには、税金関連事件におけるRTCの判決に対する控訴手続を行う管轄権もあります。

サンディガンバヤン裁判所

サンディガンバヤン裁判所は、フィリピンの反汚職裁判所です。同裁判所には、公務員及び給与等級が27以上の職位にある従業員に対して提起された汚職腐敗事件における審理及び決定の権限があります。

最高裁判所(SC

SCは、最上位の裁判所であって、フィリピンにおけるあらゆる法律上の紛争に関し、最終的裁定を下す機関です。

SCは、CA、CTA及びサンディガンバヤン裁判所が下した判決について審理します。特別なケースでは、さらに下位の裁判所(RTC等)が以下に関連して下した判決についても審理します。

・条約、国際協定、行政協定、大統領令、公布、命令、指示、条例又は規則の合憲性
・税金、関税、査定もしくは使用料及びこれらに関連して課される罰則の合法性
・下級裁判所の管轄権に関する疑義
・終身刑以上に重い罰則が課される刑事事件
・法律に関する瑕疵又は問題のみがかかわる事件

SCも、CAと同様、SCに直接提起された特別な事件を審理することができます。こうした事件には通常、特別移送令状、職務執行令状、禁止令状等の発行が関連します。国家や国民に深刻な影響を及ぼす可能性のある著しく重要性が高い事件についても、通常、SCが直接審理します。

裁判所のお世話にならないことが一番良いということは間違いないことと思いますが、フィリピンと日本の司法制度の違いについて、このコラムによって興味をお持ち頂けると幸いです。


*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。