第84回 フィリピンの広告事情
皆さん、こんにちは。Poblacionです。フィリピンでは、広告業界の影響力は大きく、非常に重要な位置づけとなっています。そのため広告業者には、様々な規則、禁止事項、制限が適用されます。フィリピンで広告業を営むこと、又はフィリピンの広告業者と取引することを考えていらっしゃる方のために、フィリピンの広告業界に関する基本的事項について少しお話しましょう。
フィリピン広告法
フィリピンには、広告及びマーケティングに包括的に適用される1つの法律があるわけではなく、それぞれ特定の対象に適用される法律の中に、広告に関する様々な規則が盛り込まれています。その一部を以下に挙げていきます。
1987年フィリピン憲法
広告産業は公益との結びつきが強いため、憲法の規定に基づき、フィリピン国籍の者又はフィリピン資本70%以上の企業にのみ、広告業を営むことが認められています。
詐欺的、欺罔的及び誤導的広告の禁止
フィリピン消費者法に基づき、「消費者向け製品又はサービスの購入を直接又は間接に誘引することを目的とする、あるいは誘引する可能性のある ... 詐欺的、欺罔的又は誤導的広告を流布すること、又は流布させること」は、違法とされています。
食品、医薬品、化粧品、装置及びその他有害物質も、特別な規制の対象です。同法により、これらの製品については、関連する規制当局の適切な承認及び登録を受けていない限り、広告が禁止されています。また、これらの製品の性質、値、数量、組成、効能又は安全性に関し、誤った印象を作出する可能性のある詐欺的、欺罔的又は誤導的広告を行うことも厳しく禁止されています。
道徳に反する素材の禁止
道徳に反する印刷物の販売、提供又は展示は刑法による処罰の対象です。公衆に配布される印刷物も、中傷的、猥褻、下品又は不道徳なものであってはなりません。
誹謗中傷する素材の禁止
他人の名誉を毀損するような誹謗中傷的発行物(例えば、競合相手の評判を傷つけるようなもの)は、フィリピン法の下で、刑事上又は民事上の名誉毀損罪に問われる可能性があります。
知的財産への配慮
広告物は、第三者の知的財産権を侵害するものであってはなりません。知的財産法に基づき、著作権侵害を理由に損害賠償請求訴訟を提起されたり、商標権侵害を理由に刑事上及び民事上の罪に問われたりすることがありますので、ご注意ください。
虚偽の説明及び表示の禁止
知的財産法が罰則の対象としているのは、侵害だけではありません。商業広告や販促において「虚偽の説明又は表示」をしたり、事実に関する詐欺的又は誤導的説明をしたりして、商品、サービス又は商業的行為の性質、特徴、品質、地理的出所について虚偽の表示をした場合も、処罰の対象となります。ただし、通常の場合、虚偽の説明又は表示という行為は、商標侵害と関連する形で、罪に問われます。
たばこ広告の禁止
たばこ規制法により、マスメディアにおけるたばこ広告は全面的に禁止されています。例外として、販売施設(たばこ店等)内におけるたばこ広告のみが認められています。
母乳代替品の広告
ミルク法の規定により、母乳代替品に関する広告及びマーケティング資料は全て、複数の政府機関から構成された機関連絡協議会の承認を受けていない限り、印刷、発行、配布、展示又は放送できません。母乳代替品の製造業者や販売業者が、一般公衆に製品サンプルを提供したり、販売場所での広告を実施したりすることも、禁止されています。
自主規制業界としての広告業界
フィリピンの広告及びマーケティング業界は、政府機関による規制は受けておらず、広告基準協議会(ASC)という名称の民間組織による自主規制が行われています。ASCは、4つの組織、すなわち、Kapisanan ng Brodkaster ng Pilipinas(放送メディア団体及びテレビ・ラジオ放送会社で構成)、Philippine Association of National Advertisers(広告代理店、広告業者及び広告会社で構成)、Association of Accredited Advertising Agencies(様々な広告代理店で構成)及びMedia Specialists Association of the Philippines(マスコミ業者で構成)が一つの組織として、全広告素材を審査するために成立した組織です。これら組織は、フィリピン有数の広告業者、広告制作会社、メディア広告会社及びメディアネットワークを代表しています。ですから、フィリピンで自社製品の広告を出すことをご検討される場合、おそらく、ASC又はその構成組織のいずれか1つと取引をすることになるでしょう。
ASCの主な機能は以下のとおりです。
(a) 広告の審査
(b) 広告内容に関する紛争の審理
(c) 広告に関する紛争の解決
ASCの制定した倫理規定があり、これには、印刷広告、商品及びデジタル素材に対する厳しい規則や規制が設けられています。倫理規定には、例えば、内容(性的内容、不敬、猥褻又は下品な内容、犯罪に関するポリシー他)、中傷、比較広告、製品の苦情に関する基準等の規則が定められています。ASCは、特殊な区分の製品(補助食品、健康サプリメント、アルコール飲料等)の場合や、広告に特定の主張又は慎重さを要する内容(先導性及び優位性に関する主張、性的含意、肌の露出等)が含まれている場合を除き、原則として、広告素材の事前審査は行いません。
以上のように、フィリピンでは日本と異なる規制がありますので、フィリピンでの広告・プロモーションをお考えでしたら、専門家に事前にご相談されることをお勧め致します。
*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。