第101回 フィリピンにおける刑事事件の告発
皆さん、こんにちは。Poblacionです。今回は、普段皆さんにはあまり馴染みがないテーマかもしれませんが、フィリピンで刑事手続が開始されてから、公判を経て、終結するまでの流れについて、お話しましょう。
I. 予備審問
通常、フィリピンにおける刑事事件は、検察庁に告発状が提出されるところから始まります。検察官は、告発状を受けて事件の「予備審問」を実施します。検察官が、審問を継続すべき理由がないと判断した場合、事件はそのまま却下されます。一方、事件性があると判断した場合、検察官は、被告発人に対して令状を発行し、対抗宣誓供述書を提出して自己の抗弁となる説明をするよう被告発人に要求します。検察官は、当事者又は証人から説明を聞くべき事項がある場合には、尋問の機会を設けることもできます。
検察官が、犯罪行為は存在しなかったという判断に至った場合、告発状の却下を勧告します。一方、検察官が、被告発人について公判を開くべき「蓋然性を有する理由」があると判断した場合(すなわち、犯罪行為が存在し、被告発人が当該行為について有罪と思われる場合)には、決定書及び正式な事件記録を作成することになります。これが、「起訴状」と呼ばれるものです。検察官は、これらの書類を州検事/市検事に提出し、その承認を受けます。
通常、予備審問手続が完了するまでに、1年から2年程度かかります。
II. 刑事事件の裁判
刑事事件の被告発人に対する起訴が、州検事/市検事によって認められた場合、管轄の裁判所に起訴状が提出されます。起訴状には、少なくとも以下のことが記載されていなければなりません − (1) 被疑者の氏名、(2) 告発されている犯罪の正式名称、(3) 起訴の対象となった具体的行為又は作為、(4) 被害者の氏名、(v) 犯罪行為のあったおおよその日、及び (vi) 犯罪行為のあった場所。
裁判所はまず、被告の罪状認否手続を行う期日を設定します。被告本人が、期日に公開法廷に出頭する必要があります。罪状認否手続では、起訴状が読み上げられ、有罪の答弁を行うか、無罪の答弁を行うかが、被告に問われます。被告が答弁を拒否した場合には、無罪の答弁を行ったと記録されます。
次に裁判所は、公判準備手続の期日を設定します。この手続では、公判に適用される「整理規則」について、裁判所と両者で合意します。公判準備手続中、両者は、司法取引の可能性の検討、事実関係に関する合意の提案、書面証拠の確認、証人の指名、公判日に関する合意等を行います。時には、和解の可能性を探る調停手続や裁判所主導の紛争解決手段に付託されることもあります。
その後、事件は公判手続へと進みます。検察側はまず、検察官に証人と証拠を提示させます。これらに対し、被告側による反対尋問が行われます。通常は、告訴人も証人として出廷します(ただし、これは義務ではありません)。そして被告側も、自己の抗弁を証明するための証人と証拠を提示し、これらに対して検察側の反対尋問が行われます。両者による証拠の提示が終わると、通常、検察側の主張及び被告側の抗弁のそれぞれをまとめた覚書の提出が、裁判所から両者に命じられます。
両者の証拠が許容されると、事件について決定が下されることになります。判決は、公開法廷で言渡され、その決定内容が被告の面前で読み上げられます。裁判所が被告の有罪に合理的疑いはないと判断した場合、有罪判決が下されます。裁判所の判決には、以下のことが記載されます − (1) 被告による犯罪行為、(2) 当該犯罪行為への被告の関与の性質、(iii) 科される罰則、及び (iv) 民事責任(該当する場合)。
被告は、裁判所判決の再考を求める申立を提出することもできますし、判決を不服として、控訴裁判所に、さらに最終的には最高裁判所に、控訴することもできます。有罪判決が維持された場合、被告は刑に服することとなります。事件の性質及び複雑性にもよりますが、通常、刑事事件の公判が終了するまでには、数年かかります。
以上が、フィリピンにおける刑事事件の告発の流れです。フィリピンの刑事訴訟制度は、他の先進諸国と比べると、迅速とも効率的とも言えないかもしれません。しかし、刑事事件の決着を早め、訴訟書類の停滞を解消するための司法改革が、最高裁判所によって順次進められています。その例として、最高裁判所は最近、刑事事件の公判継続に関する修正ガイドラインの施行を承認しました。当該修正ガイドラインには、裁判所及び両者が公判の過程で従わなければならない厳格な期間及び日程が規定されています。こうした改革の目的は、通常3年から5年を要する刑事訴訟の期間から、数ヶ月程度の期間への短縮を可能にすることです。このような改革が、フィリピンの刑事訴訟制度の発展に寄与することを願います。
*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。 また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。 フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。