第1回 日本の著作権法には「フェアユース」条項はないが、台湾にはある- 台湾の「谷阿莫事件」を例として-

谷阿莫は台湾のYoutuberであり、彼は映画の一部分をカッティング、複製してナレーションを付けた上で、「X分で映画○○を最後まで見せてあげます」というタイトルでYoutubeにアップロードし、閲覧者が短時間で映画のストーリーを把握できるようにし、かつ、閲覧後の感想を共用できるようにした。しかし、谷阿莫の創作物では映画の一部分をたくさん使用しており、台湾でまだ上映されていない映画すらあり、また、彼が加えた感想では、原作者が望まない歪んだ解釈をしている可能性がある。2017年4月24日に、「谷阿莫」は映画エージェントから権利侵害と告発され、「谷阿莫」も動画を流して反撃し、その創作物は「フェアユース」の原則に適っていると声高に主張したため、少なからぬ論争を引き起こした。以下、これを「谷阿莫事件」と称して、日台の著作権法上の処理方法の違いについて論ずる。

「谷阿莫事件」は法律普及のための台湾の社会大衆向けのカリキュラムとなっており、ほとんどの議論は台湾著作権法第65条の「フェアユース」(条文は下記を参照)に集中している。つまり、権利侵害か否かは、(1)著作物利用の目的及び性質、(2)著作物自体の性質、(3)利用のクオリティ及びその著作物全体に占める割合、並びに(4)利用結果が著作物の潜在的市場及び現在の価値に及ぼす影響という四つの面から総合的に判断することができる。

「フェアユース」の概念は米国著作権法上の「Fair Use」を起源としており、その目的は、公益と著作権者の権利とのバランスを取り、民衆が一定の範囲内で著作権者の同意を得ることなく当該著作物を使用できるようにすることである。もっとも、日本の著作権法には「フェアユース」の概念が導入されておらず、「著作権の効力が及ばない著作物利用の態様」を一つ一つ個別に列挙する方法で、上記のバランスを取っている。

「谷阿莫事件」を例とすると、「映画の一部分を再編集して公開する」行為は著作権者の日本の著作権法上の「複製権」(第21条)、「上映権」(第22条の2)、「公衆送信権」(第23条)及び「翻訳権、翻案権」(第27条)等を侵害する可能性があり、上記の各支分権については、「フェアユース」の条項がないため、同法第三節第五款の「著作権の制限」のところから支分権ごとに制限の範囲を探した上で、「谷阿莫」の行為について、著作権者の同意を得ることなく直接使用が可能となるそれらの制限の範囲内に該当するか否かを判断する必要がある。関連する制限の範囲について、以下に例を挙げる。

1.「引用」(第32条第1項):

「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」

2. 「営利を目的としない上演等」(第38条第1項):

「公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。」

また、日本の著作権法では映画の著作物を特別に保護しており、多くの著作権の制限の範囲内において映画除外条項を設けており、日本の著作権法上「谷阿莫事件」の討論をする場合、権利侵害に該当する可能性は台湾の著作権法上よりも高い。台湾の著作権法の観点に戻って見ると、台湾の著作権法には、一つ一つ個別に列挙したものと抽象的な一般条項「フェアユース」の両方があるものの、後者の存在により、前記の討論の余地及び可能性は少なくなっている。「谷阿莫事件」について言えば、台湾ではおそらく「フェアユース」の原則における「営利を目的とするか否か」、「利用のクオリティ」、「利用結果が著作物の潜在的市場及び現在の価値に及ぼす影響」等の面の議論が重視され、一方、日本ではおそらく「引用」又は「営利を目的としない」等に合致するか否かが重視され、そして「引用」については、実務が拡大する中で「明瞭区別性」、「主従関係」等の判断要件が派生しており、「主従関係」についての判断に際しても引用の目的、質及び量を考量に入れる可能性があり、台湾の「フェアユース」と、方法が異なっても同様の効果があるようである。

最後に。日本では台湾、米国のような「Fair Use」が採用されるだろうか。2009年から、日本文化庁は「日本版フェアユース」を導入するか否かについて何度も会議を開き討議しているが、現在もまだ導入するとの結論に至っていない。また、2016年10月に、日本映画製作者連盟及び日本音楽事業者協会等の著作物に関わる7団体は、導入すると「悪質な侵害行為も適法になったと誤解される可能性がある」として連名で「柔軟な権利制限方法」の日本への導入に反対した。よって、近年中に日本で「フェアユース」が採用される可能性は高くないと思われる。

台湾著作権法第65条(他人の著作物の適法利用の判断基準)

著作物のフェアユースは、著作物の財産権に対する侵害を構成しない。

著作物の利用が第44条から第63条に定める公正な範囲又はその他のフェアユースの状況に該当するか否かは、一切の情状を斟酌しなければならず、判断の基準として、以下に掲げる事項に特に注意しなければならない。

  1. 利用の目的及び性質(商業目的又は非営利の教育目的を含む)。
  2. 著作物の性質。
  3. 利用のクオリティ及びその著作物全体に占める割合。
  4. 利用結果が著作物の潜在的市場及び現在の価値に及ぼす影響。

著作権者団体と利用者団体が著作物のフェアユースの範囲について取り決めをしている場合、前項の判断における参考とすることができる。

前項の取り決めの過程で、著作権の専門権限機関に意見を求めることができる。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 鄭 惟駿

国立陽明大学生命科学学部在学中、基律科技智財有限公司でのアルバイトをきっかけに、大学卒業後も同社で特許技術者として台湾における特許出願(主にバイオ分野)に関する業務に従事。2011年から政府機関の中華民国行政院原子力委員会原子力研究所に勤務。同所の主力製品である放射性医薬品、バイオ燃料等の研究開発に付随する知的財産の権利化・ライセンス業務に携わる。2012年に台湾の弁護士資格を取得後、フォルモサンブラザーズ法律事務所に入所し、研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わった。2015年4月、公益財団法人日本台湾交流協会の奨学金試験に合格し来日、国立一橋大学国際企業戦略研究科に学ぶ。2017年3月同大学研究科を修了、同年4月に弁護士法人黒田法律事務所に入所。