第8回 台北のマナーと中国の法律

みなさん、こんにちは。黒田日本外国法事務弁護士事務所の外国法事務律師の佐田友です。

少し前の話になりますが、侍JAPANの試合を見に行きました。「マイクを通して叫ぶ男性に続いて盛り上がる応援」や「チアガールのような女性のパフォーマンス」など日本との違いが面白かったです。天母の球場で私は二階席に座っていたのですが、周囲は台湾人が多かったです。たまたま隣に座った方はソフトバンクのユニフォームを着ていた台湾人でしたね〜。

試合の最中に私の後の方から、小さい台湾の子どもと思われますが、「日本隊加油!!」という応援の声が聞こえてきて、とても微笑ましく感じました。

話は変わりますが、台北でMRTに乗っていて、まず驚くのは、日本と比べ子どもを連れている人や老人に席を譲られる方が多いことです。東京辺りの電車では、小さい子どもを抱えたお父さんが立っていても、席を譲られるのを見るのは少なくないですか??私の印象では、子連れのお父さんが席を譲られることはほとんどない気がします。

ただ、台北でよく見られる、この席を譲る行為はあくまでマナーの範囲内の行為であって、「博愛座」という一部の方(老人や妊婦など)への優先席であっても、なんらかの法律で「特定の者のみが、その席を使うことができる」と規定されているわけではありません。

一方で、台北のMRTの車内で飲食することは法律上、禁じられています。大衆捷運法という法律で、飲食をすることやガムを噛むことも禁じられているんですね〜。1500新台湾ドル以上7500新台湾ドル以下の罰金まで罰則として規定されています。

日本人は日本の感覚で、ついうっかり飲み物を飲んだり、ガムを噛んだりしてしまいそうですが、気をつけなければいけません!!シンガポールではガムを国内に持ち込むことすら禁じられているのは有名な話ですが、台北のMRTも注意が必要なんです。

どこまで物事をマナーや道徳の範囲でカバーし、どこから法律で縛るかというのは国によって様々です。台湾において「博愛座」に誰が座っていようが法律に違反するわけではないので、70代の老人が立っているそばで、小学5年生の子どもが「博愛座」に座り続けようが、もちろん犯罪ではありません。マナーとしてはどうかと思われますが、まさに、このような状況を目にした、ある38歳の男性が怒って「お前は何歳やねん?誰が、お前がその席に座ってええゆうた?」と言って、持っていた傘でその子どもに怪我をさせた事件のニュースを見ました(この事件は台北の事件です。

言葉づかいは少し荒っぽい感じに訳してみました)。子どもの行為は当然、違法ではないですし、そもそも、暴力に訴える行為は許されるものではありません。当然、法律違反です。まあ、電車内で席を譲ることを法律上義務付けている国は、さすがにないと思いますがね〜。私が知らないだけかもしれませんが。

最後に、最近知った話ですが、中国において、道徳の領域に法律が入ってきている興味深い例があるので紹介します。中国には昨年末に改正され、今年、施行された「老年人権益保障法」という法律があり、「別居している家族は、頻繁に高齢者の見舞いをしなければならない。」と規定されたんです。

「頻繁に」ってどのくらいの頻度か明確ではないのですが、ある地方の裁判所では「2カ月に1度見舞うべきである」との判決が出たそうです。親子で見舞いの頻度を争うというのもすごい話ですが、法律で規定するってこともすごいと思いませんか!!どこまでがマナーや道徳の範囲で、どこから法律で規制すべきかという問題はなかなか悩ましい問題ですね〜。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 佐田友 浩樹 (黒田日本外国法事務律師事務所 外国法事務律師)

京都大学法学部を卒業後、大手家電メーカーで8年間の勤務の後、08年に司法試験に合格。10年に黒田法律事務所に入所後、中国広東省広州市にて3年間以上、日系企業向けに日・中・英の3カ国語でリーガルサービスを提供。13年8月より台湾常駐、台湾で唯一中国語のできる弁護士資格(日本)保有者。趣味は月2回のゴルフ(ハンデ25)と台湾B級グルメの食べ歩き。