第18回 遺言の録音
皆さん、こんにちは。黒田日本外国法事務弁護士事務所の外国法事務律師の佐田友です。
ソチオリンピックの熱戦が続いていますね〜。皆さんの中にも、夜中まで起きて観戦って方もおられると思います。私もスポーツは大好きなので、いくつかの競技の観戦を楽しみましたよ。聞くところによるとソチでは昼間に気温が17度とかあるようで、思わず、「台北より暖かいやん」と突っ込みを入れちゃいました。改めて地図でソチの場所を見てみると、トルコなどに近い、ロシアでも相当、南に位置していることがわかります。なるほど、暖かいわけですね。
本日は、台湾において、日本と異なり、録音テープによる遺言が認められる場合があるということを紹介します。
遺言は、その効力をめぐって争われることが多く、日本でも台湾でも民法に規定される方式でのみ行うことができるものとされています。録音テープに遺言を記録するということで、故人の意思を知ることができる可能性はもちろんありますが、日本においては録音テープによる遺言は民法に規定された遺言方式ではありませんし、実務上も認められていません。それは後日の改変の可能性があるためであると考えられます。
これに対して、台湾の民法では「遺言者が急迫した生命の危険又はその他特殊な事情により、他のいかなる方式の遺言も作成することができない場合、遺言者は、下記方式の一つによって口授遺言をすることができる。」とし、「遺言者が二人以上の立会人を指定して遺言の趣旨と遺言者の姓名及び年月日を口授する。立会人全員が当該遺言の真正性及び自己の姓名を口述して、これを遺言者の口授遺言と一緒に全て録音した後、録音テープをその場でしっかりと封緘し、封筒に年月日を明記し、立会人全員がその封じ目に署名する。」という方法で録音テープによる遺言を認めています。
「遺言者が急迫した生命の危険又はその他特殊な事情により、他のいかなる方式の遺言も作成することができない場合」と、かなり限定を加えてはいますが、遺言を偽造するような強欲な相続人が多くの相続を受けそうで、心配な気はしますね〜。
ちなみに、台湾においても録画による遺言はなされていたものの、遺言を行った者が、実際に口頭で意思を述べるのではなく、質問にうなずくなどの挙動を示すのみでは「口授遺言」の要件を満たさず、遺言の効力を認めなかったという裁判例が報道されていました。裁判官は録画を見て、遺言を行った者が、遺言を行っている時の意識は正常なものであったと考えたようですが、最終的には民法の規定を厳格に適用したといえます。もっとも、故人の意思を確認できればよいと実質的に判断する裁判官であれば、「口授遺言」を拡大解釈し、遺言を認めたかもしれません。そういう意味では、非常に微妙なケースといえるかもしれませんね〜。
日本でも台湾でも相続財産をめぐる争いは非常に多いので、皆さんも早めに遺言を残しておかれた方がいいのは間違いないようです。「えっ、そんな争われるほど財産ないから必要ないよ〜」という突っ込みが飛んできそうですね。確かに、私のとこも同じです(笑)。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。
執筆者紹介
弁護士 佐田友 浩樹 (黒田日本外国法事務律師事務所 外国法事務律師)
京都大学法学部を卒業後、大手家電メーカーで8年間の勤務の後、08年に司法試験に合格。10年に黒田法律事務所に入所後、中国広東省広州市にて3年間以上、日系企業向けに日・中・英の3カ国語でリーガルサービスを提供。13年8月より台湾常駐、台湾で唯一中国語のできる弁護士資格(日本)保有者。趣味は月2回のゴルフ(ハンデ25)と台湾B級グルメの食べ歩き。