第32回 「訳あり物件」について(下)
皆さん、こんにちは。黒田日本外国法事務弁護士事務所の外国法事務律師の佐田友です。
先日の端午節では、皆さんも「ちまき」を食べられましたかね?端午節の前には、台北のパン屋さんなどでも「ちまき」が大量に売られているのを目にしました。台湾では、端午節には家族が集まって「ちまき」を食べるのが伝統とのことです。
日本でも端午の節句(5月5日)には「ちまき」を食べますよね。ただ、日本全国共通に「ちまき」を食べるのではなく、関東では柏餅を食べるらしく、地方によって多少違いがあるんですね〜。
今回は前回に引き続き、不動産の「訳あり物件」に関連する話を書きます。
皆さんは「自殺の二次被害」という言葉を聞かれたことがありますかね。ここでは、自殺した物件の価値が下がる結果、当該物件の所有者から自殺者の家族などが損害賠償請求を受け、「近親者などの死」という一次被害に加え、物件価値の下落についての賠償責任まで負うことを指すとご理解いただければと思います。
私が見た台湾のあるニュースでは、台中の62歳の女性が慢性の病気を患い、親の実家で自殺したという事案で、亡くなられた女性の3人の子が、親の実家の所有者である親戚から損害賠償請求を受け、台中の裁判所はその請求を認めていました。鑑定により、対象の不動産価値の減損が約75万元であったとされ、また、原告は対象の不動産の持分が3分の1であったことから、裁判所は約25万元分について訴えを認容したのでした。
このニュースで「悲しいなぁ」と思うのは、訴えた者(原告)と、訴えられた側の、亡くなられた女性の3人の子が、多少、縁遠いのかもしれませんが、親戚同士だということです。もちろん、遺産争いで親族間に骨肉の争いがしばしば起こるのは日本も同じですが、自殺で亡くなられた姉か妹(いずれかは明らかではありませんでした)のせいで、物件価値が下がったとしてその子らに損害賠償請求する原告の感覚にびっくりです。
台湾のみならず、日本においても、自殺の二次被害の問題は多く起こっているようです。
日本では物件を借りる際などに借り手以外に連帯保証人を要求されることが多いですよね?その連帯保証人として兄弟や親など近親者がなることが多いと思うのですが、まさにこの近親者が物件所有者から損害賠償責任を追及されるのです。もちろん、物件所有者の気持ちも理解できなくはありません。
そこで、あくまで私個人の考えですが、物件の従来価値から算出した一定の金額について、物件所有者が補償を受ける(財源は自賠責のような保険か税金を充てる)ことで、物件所有者から自殺者の連帯保証人への損害賠償請求を禁止するというような解決方法をなんとか探れないものですかね。
日本には非常に自殺者が多いとよく話題になりますが、結局、自殺に追い込まれる人を救えないのは社会全体に責任があるともいえるので、社会全体で一定の負担を分け合うという発想をした方がいいのではないでしょうか。もちろん異論はあるでしょうし、法制化するのはなかなか大変だと思いますが、自殺に追い込まれる人を減らすための努力を真剣かつ継続して行う社会の方が私は望ましいと思います。競争はもちろん重要ですが、資本主義社会だから自殺者が多くてもやむを得ないという結論には組したくないですね〜。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。
執筆者紹介
弁護士 佐田友 浩樹 (黒田日本外国法事務律師事務所 外国法事務律師)
京都大学法学部を卒業後、大手家電メーカーで8年間の勤務の後、08年に司法試験に合格。10年に黒田法律事務所に入所後、中国広東省広州市にて3年間以上、日系企業向けに日・中・英の3カ国語でリーガルサービスを提供。13年8月より台湾常駐、台湾で唯一中国語のできる弁護士資格(日本)保有者。趣味は月2回のゴルフ(ハンデ25)と台湾B級グルメの食べ歩き。