第45回 取り調べの可視化について

皆さん、こんにちは。黒田日本外国法事務弁護士事務所の外国法事務律師の佐田友です。

最近、朝や夕方が少しずつ涼しくなってきて、秋の近さを感じさせてくれますね〜。私ごとで恐縮ですが、今年の夏は結構、風邪をひいちゃいました。一度は、寝ているときにまで咳が出て、夜中に起きてしまうという症状で、それが薬で収まったかと思うと、少し間を置いて今度は、鼻水に悩まされました。鼻をかみ過ぎて、鼻の下が荒れるほどだったんです。このような夏風邪をひいてしまったのは、エアコンをつけているときの快適な涼しさと灼熱の暑さの繰り返しに私の体力が対応しきれず、抵抗力が落ちてしまったからではないかと想像しています。なかなか対策も難しいので、できるだけ睡眠をとって体力を維持し、風邪をひかないようにしていきたいと思っています。

さて、今回は「取り調べの可視化」について書いてみます。最近、日本でもニュースになったりしているのでご存知の方もおられるでしょうが、「取り調べの可視化」とは、「警察や検察が被疑者の取り調べを行う様子を録画や録音すること」を指します。日本には、現在までのところ、取り調べ状況の録画や録音を義務付ける法律がなく、検察や警察が自主的に取り組んでいるに過ぎません。

なぜ、「取り調べの可視化」が必要なのでしょうか?それは、取り調べの場で録画、録音が行われないことで、一部の捜査官によって様々な方法で被疑者に自白を強いることが行われてきた歴史があるからです(最近は自白の強要が無くなっていると信じたいですが。。。)。

直接的な暴力や脅迫によって自白に追い込むということは過去においては、現実に行われていたものと思われますし、他にも、「共犯者は自白しているから、お前も自白したほうがいいよ。」と嘘をついて自白を引き出す(「偽計による自白」と言ったりします)ようなことも行われてきた可能性があります。自白は証拠の王と言われることもあり、捜査官はできるだけ自白を得ようと上記のような無理をするんですね。実際に犯罪を行っていなくても、あの手、この手で捜査官から絞られれば、よほど意思の強い人でなければ自白してしまっても不思議はないように思います。

自白が有力な証拠として裁判された結果、有罪判決を受け、非常に長期間、刑務所にいた人が、最新のDNA鑑定により、犯人でないことが分かって釈放されたというようなニュースが最近もありましたよね。

日本では、今、まさに「取り調べの可視化」をどの程度の範囲まで拡大しようか議論がされているところですが、台湾ではなんと1998年には、刑事訴訟法において、原則として被疑者の取り調べの全過程を連続して録音しなければならないという規定ができているんですね〜。録画については、「必要な場合」に行う必要があるとされていますが、元検察官の同僚によれば、実務上は、被疑者の取り調べについて、原則、全過程、連続して録画されているとのことです。もちろん、例外的に、被疑者が瀕死の重傷で病院にいるというような場合などには、取り調べの記録を書面に残してさえいれば、録画は不要とされています(録音は必要とのこと)。

以前には、台湾でも自白を強要された結果、死刑となり、後に冤罪であることがわかった江国慶事件など痛ましい事件もあると聞きました。国家権力が冤罪を生み出すことはあってはならないことだと思います。

取り調べの可視化は、アメリカの多くの州、イギリス、フランス、イタリア、オーストラリア、香港、韓国などでも(完全ではない国もあるとのこと)行われているそうです。つまり、世界的には可視化の方向に進んでいるといえると思います。日本では、今後、どのように法制化されるのか注目していきたいですね〜。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 佐田友 浩樹 (黒田日本外国法事務律師事務所 外国法事務律師)

京都大学法学部を卒業後、大手家電メーカーで8年間の勤務の後、08年に司法試験に合格。10年に黒田法律事務所に入所後、中国広東省広州市にて3年間以上、日系企業向けに日・中・英の3カ国語でリーガルサービスを提供。13年8月より台湾常駐、台湾で唯一中国語のできる弁護士資格(日本)保有者。趣味は月2回のゴルフ(ハンデ25)と台湾B級グルメの食べ歩き。