第48回 台湾の五権分立制
皆さん、こんにちは。黒田日本外国法事務弁護士事務所の外国法事務律師の佐田友です。
台北駅の程近く、中山北路に、孫文に縁のある建物が保存されている場所があります。孫文は「中華民国の国父」と呼ばれていますが、実際に台湾を訪問した回数はそれほど多くないようです。その貴重な、孫文が台湾に来た際に宿泊した旅館(日本家屋です)を保存し、公園として整備しているそうで、小さな建物の中には孫文の写真資料などが飾られていました。資料の中には、中国広東省中山市の孫文の生家の写真や、広州市の黄埔軍官学校における孫文の写真などもありました。
その建物のふすまは色あせており、もしかすると相当古いものを保存してあるのかもしれません。それほど有名な観光施設ではないので、訪れる人はそう多くないようでしたが、建物のすぐ横の一角でコスプレ姿の女性を撮影している男性がおり、古い建物と現代の風俗がクロスオーバーして不思議な感じがしましたね〜。
さて本日は、台湾では五権分立制が採られていることを紹介します。「三権分立じゃなくて五権もあるの?」と思われますよね〜。欧米諸国や日本では、立法、行政、司法の三権がお互いに抑制しあうことで均衡を図る三権分立制が採用されています。日本を例にとると、行政が立法議会の解散権を有していたり、司法(裁判所)が違憲立法審査権を有していたりして、それぞれの機関が他の機関と抑制し緊張を保つことで、バランスをとろうとしています。
台湾にも立法、行政、司法の三権は当然存在するのですが、それ以外の二権として考試(試験)・監察という権力が存在し、その権力を実施する機関として考試院・監察院が存在するのです。そもそも、このような考試(試験)・監察という権力の存在は、孫文の学説に基づくそうです。以下に、簡単に考試院・監察院について紹介いたします。
まず、考試院について。考試院は、若干名の考試委員により組織され、公務員試験、公務員の任用、昇進、保障、退職等を主管する機関です。一般的に、公務員試験は行政権の行使の一環として行われることが多いですが、孫文の学説によると、考試権を行政権から独立させることで、行政機関が恣意的に人材を登用することを防ぐことが可能となるとのことです。しかし、公務員試験や公務員の人事管理のために考試権を独立させ、立法権・司法権等と同等の扱いとすることについての批判は多く存在するそうです。
次に、監察院について。29名の監察委員からなり、公務員を問責・弾劾する権限、行政機関に対し会計監査を行う権限を有します。これらの権限は本来、立法院(国会)の権限であるはずですが、孫文の学説によると、監察権を立法権から独立させることで権力が国会に集中することを防ぐことができるとのことです。しかし、監察院があまり機能していないとのイメージを持つ人が多いようで、実際にも、前総統の陳水扁が在任中には、行政院と立法院との確執により立法院が監察委員の任命案に同意しなかったため、監察院が3年間全く機能しなかったそうです。
実際に、考試院・監察院を廃止した場合に、どんな影響があるか(あるいはほとんど影響がないか)予測することはなかなか難しいでしょうね〜。ただ、それ以前に、台湾の一般大衆は考試院・監察院の存否の問題に無関心である人が多いと台湾人の同僚から聞きましたので、批判は一部の識者によるものであって、結局のところは、台湾で考試院・監察院を廃止するというような大きな政治体制の変更が起きる可能性は低いようです。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。
執筆者紹介
弁護士 佐田友 浩樹 (黒田日本外国法事務律師事務所 外国法事務律師)
京都大学法学部を卒業後、大手家電メーカーで8年間の勤務の後、08年に司法試験に合格。10年に黒田法律事務所に入所後、中国広東省広州市にて3年間以上、日系企業向けに日・中・英の3カ国語でリーガルサービスを提供。13年8月より台湾常駐、台湾で唯一中国語のできる弁護士資格(日本)保有者。趣味は月2回のゴルフ(ハンデ25)と台湾B級グルメの食べ歩き。