第51回 台湾の司法〜その1
皆さん、こんにちは。黒田日本外国法事務弁護士事務所の外国法事務律師の佐田友です。
遅ればせながら、「KANO」(戦前の甲子園球場で行われた高校野球大会で準優勝した嘉義農林学校を取り上げた映画)を先日、鑑賞しましたよ〜。最近の再上映のニュースを聞き、今がチャンスだと思って出かけてきました。土曜の昼間だったということもあり、9割前後の座席は埋まっていたと思います。非常に勢いのある映画でストーリーも面白く、ぐいぐい引き込まれたので、3時間以上という上映時間の長さを感じずに映画を楽しみました。ほろっとさせる場面もあるし、笑える場面もあり、台湾映画史に残るヒットになった理由がわかったように思います。ちなみに、映画代金は一人320元でしたよ〜。
さて、本日と来週の2回に渡って、台湾の司法に関連する話を紹介していきたいと思いますが、そもそも台湾の司法を担う司法機関にどのような機関があるか、まず紹介します。
司法機関の中で最高位に位付けられる機関として、司法院があります。その下に最高裁判所(及びその下に各下級裁判所)があり、他にも、最高行政裁判所・高等行政裁判所・公務員懲戒委員会等の機関が存在します。司法院は各裁判所の行政・人事を担当する機関としての性質が強く、民事・刑事訴訟を担当する裁判所ではありません。司法院に設置されている大法官会議(司法院の院長を含む17名の大法官で構成される)が、憲法解釈・憲法訴訟を専門に担当するので、この大法官会議が憲法裁判所のようなものであるということができそうです。日本には、憲法裁判所は存在せず、違憲判断についても各裁判所が行う(最終的には最高裁判所)ので、台湾とは異なります。近年、台湾では司法院・最高裁判所・最高行政裁判所及び大法官会議の一体化を進める議論がしばしばなされていると聞きましたが、実現の目処は立っていないとのことです。
先ほど、行政裁判所についても言及しましたが、この点も日本と異なるところであり、台湾の裁判所は、民事事件と刑事事件を審理する裁判所と行政事件を審理する行政裁判所に分けられます。行政機関の行政処分を不服とする場合、行政機関への訴願を経た後に、行政機関を相手とする訴訟を行政裁判所に対し、提訴するというステップになります。台湾では、行政機関が公共工事代金を契約の予定どおり支払わないことがあると聞きますが、このような場合、最終的には、行政機関を相手取り、行政裁判所に裁判を起こすことになりますね〜。
なお、民事事件と刑事事件の審理は三審制ですが、行政裁判は二審制であるため2つの審級(高等行政裁判所、最高行政裁判所)しかありません。
その他、台湾には、知的財産権に関する事件の審理を効率よく行うために知的財産裁判所が設置されており、知的財産権に関する民事事件の一審、二審の審理はいずれも知的財産裁判所が行います。知的財産裁判所には、知的財産権に関する事件を審理する裁判官を補佐するため、科学技術に詳しい技術審査官が配属されているとのことです。
このように、本日は台湾の司法機関についてご紹介いたしました。次回は、台湾では、実は司法不信の問題が切実であること、及び、それを受けて、司法院が検討している一つの取り組みについて紹介いたします。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。
執筆者紹介
弁護士 佐田友 浩樹 (黒田日本外国法事務律師事務所 外国法事務律師)
京都大学法学部を卒業後、大手家電メーカーで8年間の勤務の後、08年に司法試験に合格。10年に黒田法律事務所に入所後、中国広東省広州市にて3年間以上、日系企業向けに日・中・英の3カ国語でリーガルサービスを提供。13年8月より台湾常駐、台湾で唯一中国語のできる弁護士資格(日本)保有者。趣味は月2回のゴルフ(ハンデ25)と台湾B級グルメの食べ歩き。