第61回 違法建築物の強制撤去

皆さん、こんにちは。黒田日本外国法事務弁護士事務所の外国法事務律師の佐田友です。

2015年が始まりましたね〜。今年は、元旦から4連休になったこともあり、日本に帰省されたり、旅行に出かけられた方も多いのではないでしょうか。台湾でも観光地やふるさとに多くの方が移動されたようで、1月3日の渋滞の激しさを伝えるニュースを新聞で見ましたよ。私が見た記事では宜蘭から台北まで車でなんと7時間かかったとのことです。

渋滞が無ければ1時間程度あれば行ける距離だと思いますので、渋滞のひどさがよく分かりますよね〜。トンネル開通後のもっとも長い時間の記録であるとの報道でしたが、渋滞に巻き込まれた方には心から同情いたします。私も3日の日は台南に出かけており、安平という鄭成功ゆかりの観光地へ移動していた際に渋滞に遭遇したのですが、宜蘭から台北への移動に比べればかわいいものでした。

さて、本日は、年末年始にかけて話題になった違法建築物の強制撤去について取り上げてみます。

報道によれば、柯文哲台北市長は、台北市において、屋上に無許可で増築工事を行っているビルに対し、今年の3月20日までに所有者に自ら改善することを促し、改善されなければ強制的に撤去するとのことです。226戸ものビルに最後通告を突きつけたこともあり、私が見たニュースでは「破天荒」、つまり前代未聞という表現が使用されていました。

もともと行政指導は行われていたようですが、強制執行までは実行されず、違法状態が放置されていたわけで、言わば「行政の怠慢」というべき状況を変えるべく、「剛腕」を揮った点に関して「思い切ったことをするなぁ」と私もビックリしました。

上述のような政策を発表した背景には、少し前に台北市内の屋上の違法建築物から出火した火事で一人が死亡したという事件が契機になり、台北市の防火体制整備の一環として違法建築物の撤去に喫緊に取り組まねばならないと市長が決断したというような事情があったものと推測します。実際にも、同僚の台湾人によれば、多くの台湾人は違法建築の危険性について、「いち早く対処してほしいと考えているだろう」とのことでしたので、比較的、市民の支持を得やすい政策であり、そこまで驚くべき内容ではなかったのかもしれません。

台湾の建築法という法律においては、直轄市、県(市)の主管建築機関の審査許可を得ないで勝手に建てられた建築物について、建設者や使用者に対し建築物の価格の1000分の50以下の罰金に処し、強制的に建設や使用を停止させ、公共の安全に危険性を及ぼすような場合には、期限を定めて改築させたり、強制撤去することもできるとされています(中文ではそれぞれ、「修改」「強制拆除」という言葉が使われています)。

同法に基づく柯文哲台北市長の政策は合法的なものでしょうが、違法建築物を改善するといっても、実質、撤去するしかないと考えられるところ、現に住居として使用している者が転居先を確保するための期間として4カ月弱という期間が適切なのかという問題は生じる可能性はあります。

また、法的に問題がなくとも、対象の建築物を撤去するにあたり、使用者の抵抗を受ける可能性もあるため、執行を進めるにあたっては警察などの協力を得つつ行うことも必要になるでしょう。

なかなか、実際に撤去を行うことになれば手間や面倒なことも当然生じますので、市政府として後回しにしがちなことに着手したという意味では市長は評価されるべきなのかもしれませんね〜。私の同僚の台湾人の話でも、柯文哲台北市長の評価はなかなか高いので、今後もどのような政策を実行に移していくのか楽しみなところであります。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 佐田友 浩樹 (黒田日本外国法事務律師事務所 外国法事務律師)

京都大学法学部を卒業後、大手家電メーカーで8年間の勤務の後、08年に司法試験に合格。10年に黒田法律事務所に入所後、中国広東省広州市にて3年間以上、日系企業向けに日・中・英の3カ国語でリーガルサービスを提供。13年8月より台湾常駐、台湾で唯一中国語のできる弁護士資格(日本)保有者。趣味は月2回のゴルフ(ハンデ25)と台湾B級グルメの食べ歩き。