第63回 台湾における製造物責任
皆さん、こんにちは。黒田日本外国法事務弁護士事務所の外国法事務律師の佐田友です。
先日、近所のレンタサイクルのステーションでいつものように自転車を借りようとしたところ、分かりやすい場所に落ちている、というか置いてあったクレジットカードに気づきました。有効期限も残っており、悪用されるのもかわいそうなので交番に届けることにしました。台湾では初めて交番に行くということもあり、交番に向かう途中、「交番でいろいろ聞かれるのも面倒だなぁ」という思いが一瞬浮かんできましたが、「まぁ、それくらいはがまんしないと」と気を取り直し、しっかりと交番に届けさせていただきました。
予想とは異なり交番では、名前と連絡先の電話番号を書いただけで、ものの30秒で届出自体は終了しちゃいましたよ。日本だと警察に落し物を届けると、「拾得届」とか書かないといけなかったような気がしますが、台湾ではとりあえず簡単に済んでよかったです(笑)。たまたまかもしれませんが…。
さて、本日は、台湾における製造物責任について取り上げてみます。
実は、台湾には、日本や中国のような製造物責任に関する特別法があるわけではありません(日本には製造物責任法、中国には製品品質法という法規があります)。特別法こそないですが、台湾においても製造物責任は消費者保護法と民法によって規律されています。
民法には、「製造者は、製品の通常の使用又は消費により他人に生じた損害について賠償責任を負う。但し、製品の生産、製造、加工若しくは設計に瑕疵がない場合、又は損害が瑕疵によってもたらされたのではない場合、又は製造者が損害を防止するために相当の注意を払っていた場合は、この限りでない。」「製品の生産、製造、加工又は設計が、その取扱説明書又は広告の内容と不一致である場合は、瑕疵があるとみなす。」「輸入者は、損害について製造者と同等の責任を負う。」という規定があります。製品の製造者だけでなく、製品を輸入している者も製造者と同様の責任を負うとされていることは知っておきたいですね〜。
消費者保護法においても、「企業経営者」(製造者、輸入者、販売者を含む概念)が消費者に対して負う責任が規定されており、提供する商品またはサービスにより消費者の生命、身体、健康、財産に危害を与える可能性がある場合には、警告表示及び危険を緊急に処理する方法を消費者がすぐに分かる場所に明示しておくことが求められています(無形のサービスの場合には事前に周知させることが必要であると考えられます)。
「企業経営者」が当該義務に反して消費者に損害を与えた場合に、「企業経営者」は損害賠償責任を負いますし、この損害賠償責任に加えて、懲罰的賠償責任を負う可能性もある点には注意する必要があります(日本の製造物責任法上、このような懲罰的賠償責任は規定されていません。また、日本の製造物責任法では、台湾の消費者保護法と異なり、販売者が製造物責任の主体になることは一般的にはありません)。
上述の懲罰的賠償責任ですが、故意であるか、過失であるかによっても責任の程度が変わりますが、故意であると認定された場合には、最大で損害額の3倍に当たる懲罰的賠償金を支払わなければならない可能性があります。
一方の過失の場合、つまり「うっかりミス」などに起因する損害の場合の懲罰的賠償金は損害額の1倍以下とされていますが、過失により製造物責任の問題を起こしてしまったケースでも、実際の損害額以上に賠償責任を負わなければならない可能性があることから、製造者、販売者にとってはなかなか厳しい規定が台湾の消費者保護法にはあるといえますね〜。製造者、販売者としては、できるだけ「うっかりミス」などの過失を無くすべく努力していくしかないですね〜。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。
執筆者紹介
弁護士 佐田友 浩樹 (黒田日本外国法事務律師事務所 外国法事務律師)
京都大学法学部を卒業後、大手家電メーカーで8年間の勤務の後、08年に司法試験に合格。10年に黒田法律事務所に入所後、中国広東省広州市にて3年間以上、日系企業向けに日・中・英の3カ国語でリーガルサービスを提供。13年8月より台湾常駐、台湾で唯一中国語のできる弁護士資格(日本)保有者。趣味は月2回のゴルフ(ハンデ25)と台湾B級グルメの食べ歩き。