第68回 労働者からの罰金徴収

皆さん、こんにちは。黒田日本外国法事務弁護士事務所の外国法事務律師の佐田友です。

少し前の話ですが、初めて台北市の郊外にある「猫空」に行ってきました。「猫空」は自然豊かな環境の中で、散策をしたり、付近で採れるお茶を楽しんだりすることができることで知られている場所です。都市交通システム(MRT)で動物園の近くまで移動し、MRTの駅のすぐ近くからロープウェーで「猫空」に行くことでできます。

私が訪れた日は、強風の影響で残念ながらロープウェーは動いていなかったのですが、バスでも行くことができました。立ち寄ったお茶屋さんで妻とゆっくりお茶と料理を楽しみましたが、そのお茶屋さんは24時間営業しているということに驚きました。お客さんが深夜にも来られるってことなんでしょうね。これからの季節、「猫空」は標高が高いので、多少の涼感を味わえるでしょうし、台北市内の喧騒を離れて気分転換するには非常によいスポットだと思いますよ〜。

さて、本日は、労働者からの罰金徴収についてとりあげてみます。皆さまの会社では、例えば、遅刻した労働者への制裁として、罰金を徴収したりされていますか?

そもそも労働者から罰金を徴収することが法的に認められているかについてですが、日本では労働基準法に「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合」における具体的な基準が規定されていますので、就業規則において、「減給の制裁」すなわち罰金を規定し、労働基準法所定の基準内であれば、労働者から罰金を徴収することが可能です。

ちなみに、日本の労働基準法においては、「一回の額が平均賃金の一日分の半額」(ここでいう「平均賃金」についても労働基準法において定めてあります)「総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一」を超えてはならないという基準が設けられています。

これに対して台湾では、罰金に関連する規定として、労働基準法に「雇用主が違約金又は賠償費用に充当するために予め労働者の賃金を控除してはならない。」との規定があり、賃金からの減給が認められないことは明らかですが、減給という手段によらない罰金の徴収が認められないかについて特に法律上、規定はないようです。

この点について、台湾の実務では、「賃金からの減給が認められない」だけで、別途、賞与を減額することや罰金として別途、徴収することまでは法的に禁じられていないと解釈し、実際に、合理的な金額の罰金を労働者から徴収することは行われているようです。

私は台湾では労働者有利な判断が裁判などで下されることが多いと聞いており、そもそも罰金を労働者から徴収することは難しいのではないかと思っていたのですが、合理的な範囲内であれば、罰金を課すことは可能なんですね〜。

よって、遅刻した労働者は、実際に働いていない時間は当然に減給される(「ノーワーク・ノーペイの原則」)のに加え、就業規則などに規定があれば、一定の罰金も負担することになります。どの程度の金額まで合理的といえるかは担当する裁判官次第のところもあり、いくらなら大丈夫ということは明確にできないところです。実際に、同僚の台湾弁護士に聞いても、雇用主が労働者に罰金を課したことが裁判所で争われる場合、雇用主が敗訴するケースが大多数を占めているようですので、罰金制を導入するにしても金額は低めに設定するほうが無難かもしれませんね〜。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 佐田友 浩樹 (黒田日本外国法事務律師事務所 外国法事務律師)

京都大学法学部を卒業後、大手家電メーカーで8年間の勤務の後、08年に司法試験に合格。10年に黒田法律事務所に入所後、中国広東省広州市にて3年間以上、日系企業向けに日・中・英の3カ国語でリーガルサービスを提供。13年8月より台湾常駐、台湾で唯一中国語のできる弁護士資格(日本)保有者。趣味は月2回のゴルフ(ハンデ25)と台湾B級グルメの食べ歩き。