第73回 違法建築への対応について
皆さん、こんにちは。黒田日本外国法事務弁護士事務所の外国法事務律師の佐田友です。
突然ですが、皆さんはプラシーボ効果という言葉を聞かれたことがありますか。例えば、実際に効果のない薬っぽい外観のカプセルを「薬だよ」と言われて飲んだだけで(薬だと人が思い込むことで)、実際に体調が改善されたりすることを指して言われるようです。
確かに「病は気から」ということもあり、実際に、何かを信じやすい、素直な性格の人ならこういうことがあっても不思議ではない気がします。私もそういう性格だというわけではないですが、軽い風邪などひいて病院に行くと、病院の先生に診てもらうだけで何か治ったような気がして、薬がもったいないような気持ちになったことがあります。こういうのもプラシーボ効果の例なんでしょうかね。もちろん、本当に治るまで私はきちんと薬を飲みますけどね〜。
少し前の話ですが、柯文哲市長が期限を決めて撤去を求めていた台北市内の違法建築226戸について、期限内に、すべて撤去が完了したというニュースがありました。これらの建築物は台北市の警告に従って自主的に撤去を行ったようですが、仮に期限を守らず、撤去していなくても、柯文哲市長ならば強制的に撤去を行ったのではないかと思います。柯文哲市長は奔放な物言いをされるので、失言して叩かれたりしていますが、支持率のニュースを聞く限り、非常に高い人気を誇っており、自身の信じる政策を積極的に実現させていこうという雰囲気を感じるからです。
ただ、台湾全体で見るとまだまだ違法建築の問題は存在するようです。昨年の7月の報道ですが、彰化市の農地のど真ん中に300〜400坪の工場とその脇に全く新しい4階建ての別荘が建設されたことが問題となったケースがありました。「何が問題なの?」と思われるかもしれません。この点ですが、台湾においては土地の分類上、農牧用地(農地も含まれます)は基本的に農牧目的にしか使用できず、建設できる建物も農業経営と不可分の「農舎」などに限定されているんですね〜。
そして、工場や別荘は明らかに農業経営とは無関係と考えられるところ、おかしいと思った人が土地所有権の登記を確認しました。結果的に、工場等が建設されたのはやはり農牧用地であり、建設途中の様子を撮影した写真を彰化県政府に提出して確認を求めたところ、県政府も「現況が農業使用に当たらない」ことは認めました。
ところが、県政府は建設が進む状況を放置し、建物は完成してしまったそうです。その後、県政府は既に裁定を行ったとコメントしており、その内容ですが、別荘については、「建物の3階、4階部分については撤去しなければならない」としつつ、「他人に影響がないことから、撤去されるのを待つ」というものであり、工場については、「指導を経て、登記自体は認めた(これで工場として操業はできると思われます)」とし、「今後の実地調査については法に基づいて進める」というものでした。
県政府の違法建築への対処がこのようなものに留まれば、結局、次から次へと違法建築が行われることになりかねないと思います。「彰化県政府にも柯文哲市長のような実行力があればなぁ」というふうに思う方もいるでしょうね〜。
この他にも、台東の農地が高値で取引され、別荘が多く建設され風景が一変しているというニュースもありましたし、雪山トンネル開通後に、宜蘭に投資目的や民宿として使用される「農舎」の建設が増えているというニュースもありました。不動産投機熱というのは、台北などの大都市だけでなく、地方へも向かっており、違法建築についての対応が問われる局面が今後も増えていきそうです。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。
執筆者紹介
弁護士 佐田友 浩樹 (黒田日本外国法事務律師事務所 外国法事務律師)
京都大学法学部を卒業後、大手家電メーカーで8年間の勤務の後、08年に司法試験に合格。10年に黒田法律事務所に入所後、中国広東省広州市にて3年間以上、日系企業向けに日・中・英の3カ国語でリーガルサービスを提供。13年8月より台湾常駐、台湾で唯一中国語のできる弁護士資格(日本)保有者。趣味は月2回のゴルフ(ハンデ25)と台湾B級グルメの食べ歩き。