第77回 食品輸入の問題
皆さん、こんにちは。黒田日本外国法事務弁護士事務所の外国法事務律師の佐田友です。
先日、朝方に地震があり台北もかなり揺れましたよね〜。私が台湾に来て1年9カ月ほどですが、一番大きな揺れだったように感じました。この地震の影響で、実は、私どもの事務所が入っているビルでは、ちょっとした騒ぎがありました。というのは、当日の10時過ぎに、ビル管理者からいったんビルから外に出るように指示があったんです。地震の影響でガス漏れでもしたというような話(確かに、エレベーターホール付近で何か臭かったです)で、外で待機するようにという指示でした。
我々がビルから外に出ると、大量の報道関係者、カメラマン、消防車がビルの付近に見受けられ、ちょっと怖い思いをしましたが、後で知ったところによれば、ビルに併設されている立体駐車場に駐車されている車が揺れで何台か落下し、ガソリンが漏れたのが臭っていたようです。結局、2時間かそこらで事務所に戻れたのですが、ガス爆発なんてことにならなくてよかったです(ほっ)。
最近、ニュースなどでも取り上げられていますので多くの方は知っておられるでしょうが、日本の食品の台湾への輸入時の取扱が変更されようとしており、現場では大きな混乱を招いているようです。
具体的には、衛生福利部食品薬物管理署が公告において、日本から台湾へ輸入する食品は日本政府が発行した産地証明(日本政府もしくは日本政府が授権した組織が発行した産地を証明できる書類などでもよい)が添付されていなければ、食品の輸入検査の申請はできないこと、また一部の地域の特定の食品(水産品、茶類の乳製品、幼児食品、キャンディー、クッキーなど)については、放射性物質検査証明書が添付されていなければ、食品の輸入検査の申請はできないとされております。例えば、水産品についていえば宮城県、岩手県、東京都に加え、福島県から遠く離れた愛媛県もなぜか挙げられています。
これらの公告について効力が5月15日に生じるとされており、できるだけ通関時に問題を発生させないために、どのような証明書をもって通関申請できるのかなど政府関係者などがやりとりを重ねておられるのでしょうが、台湾で日本からの輸入食品を扱っている関係者の方はほんとうに心配されていると思います。
上述のような輸入食品の取扱変更は、日本と台湾の民間交流が非常に盛んになっている昨今の流れに逆行するもので、どれほどの台湾人が真にそのような変更を希望しているのか疑問です。もちろん、台湾人の方が食の安全に神経をとがらせているのは確かでしょう。
しかし、一方で、衛生福利部のホームページ上にある、上記公告に関連する問答集(Q&A)において、カナダ、ニュージーランド、マレーシア、ベトナム、オーストラリアについては、完全に輸入時の放射能に関する管理、制限を解除していることを明示していますし、日本からの輸入食品を長期に渡って食べ続けることについても、2011年3月以来、食品薬物管理署がリスクの高い産品について行っている輸入時の検査結果はすべて合格で、99.67%もの絶対多数の食品において何らの放射能も検出されていないことから、特に問題はないとしています。
このように、輸入時の制限を無くす方向で議論できそうな要素もあるにもかかわらず、将来的な制限解除までの道筋が示されないことが残念でなりません。一部の政治家が、食の安全に熱心に取り組んでいることのアピールのために、日本からの輸入食品の取扱を厳しくしたというような噂もありますが、それが真実であれば、非常に残念ですね。
台湾でも日本の食品についての理解が進み、輸入手続が簡素化されるとともに、現時点で完全に輸入が禁じられている福島県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県産の食品についても、一日でも早く輸入ができるようになってほしいものです。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。
執筆者紹介
弁護士 佐田友 浩樹 (黒田日本外国法事務律師事務所 外国法事務律師)
京都大学法学部を卒業後、大手家電メーカーで8年間の勤務の後、08年に司法試験に合格。10年に黒田法律事務所に入所後、中国広東省広州市にて3年間以上、日系企業向けに日・中・英の3カ国語でリーガルサービスを提供。13年8月より台湾常駐、台湾で唯一中国語のできる弁護士資格(日本)保有者。趣味は月2回のゴルフ(ハンデ25)と台湾B級グルメの食べ歩き。