第82回 法原則の明文化(事情変更の原則など)

皆さん、こんにちは。黒田日本外国法事務弁護士事務所の外国法事務律師の佐田友です。

最近、蒸し暑い日が続きますが、皆さまは体調を崩さずに元気に日々、過ごされていますでしょうか。先日、ゴルフの入らなかった週末に、久しぶりにジョギングに出かけました。もちろん、夕方、多少涼しくなってからです。真昼間に走るなんて酔狂なことはしませんよ。自宅近くの河川敷を久しぶりに15分か20分ほど走りました。そして、いくつかある出入り口の内、青年公園方面に抜ける出入り口を抜けようと河川敷横に設置されているエレベーターに乗ったのですが、なんと、なんと、エレベーター内は天国のような涼しさでした。

エレベーター内にはエアコンが設置されており、強烈に冷気を放出してくれており、一瞬、エレベーター内でしばらく休憩しようかと思う位でしたよ。いやあ、台北市の市民サービスが手厚いのか何なのかわかりませんが、そこまで電力事情が切迫していない表れなのでしょうね。「ありがたい」と思いつつ、一方で、「ここまでする必要があるのかしらん」と考えてしまいました。

台湾や中国の法律において、日本では法律上明文化されていない内容が明文化されているのを見つけて「面白いな」と感じることがあります。

例えば、日本の現在の民法には規定されていないものの、個別の判例上は認められている「事情変更の原則」という内容があります。「事情変更の原則」とは、そもそもどのような内容かといいますと、「契約締結時に前提とされた事情が当事者の予見し得なかった事実の発生によって、その後変化し、元の契約どおりに履行させることが当事者間の公平に反する結果となる場合に、当事者は契約解除や契約内容の修正を請求しうる」というものです。

この「事情変更の原則」について、台湾の民法には明文で「契約成立後に、その時点で予見不能な状況に変更が生じ、それにより生ずる当初の債務の履行が明らかに不公平となった場合、当事者は、給付の増額若しくは減額、又は当初の債務の変更を法院に申し立てることができる。」という規定があるんですね〜。

他にも、日本の現行の民法には規定されていないものの改正試案などにおいて検討されている「不安の抗弁」について、台湾の民法には規定があります。「不安の抗弁」とは、「当事者双方が互いに対価的な意義を有する債務を負う契約において、当事者のうち自己の債務を先に履行すべき義務を負う者が、相手方に一定の事由が発生したことをもって、その反対給付である債権につき履行を得られないおそれがある場合において、契約締結時に当該事由の発生が予見できなかったなどの要件を満たすことを条件に、その債務の履行を拒むことを認める」というものです。

ちょっと分かりにくいかもしれませんが、例えば、売買契約などの契約で、先に商品の引渡義務を負っていても、相手方がいきなり不渡りを出したなど、代金の支払いを受けられないおそれが生じた場合に、先履行義務のあった商品の引渡を拒否することを認めるというようなイメージです。

ちなみに、台湾の民法では、「先に給付する義務を負う者は、契約成立後に相手方の財産が明らかに減少し、これにより反対給付が困難になる可能性がある場合、相手方が反対給付をするか、給付の担保を提供するまで、自己の給付を拒絶することができる。」と規定されています。その他、中国の契約法においても「不安の抗弁」と同趣旨の規定が存在しています。

これら「事情変更の原則」や「不安の抗弁」については、判例などで運用がある程度固まっているのであれば、法律として整備するほうがよいのでしょうが、法律はなくとも、結局、当事者間の公平の観点から、ケースバイケースで判断するという側面もありますので、絶対に法律に規定しなければならないわけではないとも考えられるところです。

法律に規定してある、していないは別にして、「事情変更の原則」や「不安の抗弁」という法律上の概念があることについては知っておいていただくのもよいと考え、本コラムにて、ご紹介申し上げました。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 佐田友 浩樹 (黒田日本外国法事務律師事務所 外国法事務律師)

京都大学法学部を卒業後、大手家電メーカーで8年間の勤務の後、08年に司法試験に合格。10年に黒田法律事務所に入所後、中国広東省広州市にて3年間以上、日系企業向けに日・中・英の3カ国語でリーガルサービスを提供。13年8月より台湾常駐、台湾で唯一中国語のできる弁護士資格(日本)保有者。趣味は月2回のゴルフ(ハンデ25)と台湾B級グルメの食べ歩き。