第119回 台湾における時効規定〜その2
皆さん、こんにちは。黒田日本外国法事務弁護士事務所の佐田友です。
3月は異動の時期ですよね。「さよならだけが人生だ」というフレーズを時に思い出して切ない気持ちになりますが、とてもお世話になった方や親しくしていただいた方が日本に戻られるということで送別会がてらお会いすることが3月には多くなります。人によってもちろん違いはありますが、台湾駐在の会社員の方の多くは3年から5年くらいで、次の任地に赴かれますよね。台湾でご縁があった方とこの先も時々はお会いしたいものです。私がお世話になっている、台湾のある県人会では、台湾の組織とは別に、東京に帰任された方のスピンオフ組織が存在しており、先日の旧正月のタイミングで、台湾○○県人会OB会in東京が開催されたというように聞いております。台湾での縁が日本でも続くということで、なかなかいい話ですよね〜。
日台で異なる取得時効の規定
本日は、先週に引き続き時効規定について取り上げてみたいと思います。
時効といっても、大きく、消滅時効と取得時効に分かれることは、先週、ご紹介いたしましたが、本日は取得時効(一定の時間の経過をもって対象の物や不動産などの権利者であることを認める法制度)について紹介することといたします。
取得時効という制度自体についても、日本、台湾いずれも民法に規定があるのですが、日本と台湾の規定の大きな違いとして、台湾では動産と不動産について別々に時効の規定が存在することが挙げられます。
具体的には、日本では「20年間、所有の意思をもって、平穏にかつ公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する」「10年間、所有の意思をもって、平穏にかつ公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意でありかつ過失がなかったときは、その所有権を取得する」と動産、不動産を区別することなく規定されています。
これに対して台湾では、動産について「所有の意思をもって、10年間継続して平穏かつ公然と他人の動産を占有した者は、その所有権を取得する」(占有開始時に善意無過失なら5年で所有権を取得するとの別規定もあり)、不動産について「所有の意思をもって20年間継続して平穏かつ公然と他人の未登記の不動産を占有した者は、当該不動産の所有者としての登記の請求権を有する」(占有開始時に善意無過失なら10年で登記請求権を有するとの別規定もあり)と規定されています。
比較してみると、台湾では動産については日本より非常に早く時効取得を認める法制度を採用しているといえます。
違いは「登記請求権」
不動産については、時効取得までの期間が日本と台湾とで基本的に同じであるといえますが、不動産について「所有権を取得する」のではなく、「登記請求権を有する」とするのは、台湾民法における不動産の所有権移転には登記の移転が必須であるからなんですね(第116回のコラムでこの点は紹介いたしました)。時効取得の対象となる不動産についても台湾では、「未登記の不動産」に限定されていることもこの点を裏付けているといえます。
取得時効が問題になるケースは消滅時効の場合より比較的少ないかもしれませんが、参考にしていただければうれしく思います。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。
執筆者紹介
弁護士 佐田友 浩樹 (黒田日本外国法事務律師事務所 外国法事務律師)
京都大学法学部を卒業後、大手家電メーカーで8年間の勤務の後、08年に司法試験に合格。10年に黒田法律事務所に入所後、中国広東省広州市にて3年間以上、日系企業向けに日・中・英の3カ国語でリーガルサービスを提供。13年8月より台湾常駐、台湾で唯一中国語のできる弁護士資格(日本)保有者。趣味は月2回のゴルフ(ハンデ25)と台湾B級グルメの食べ歩き。