第120回 祭祀公業について

皆さん、こんにちは。黒田日本外国法事務弁護士事務所の佐田友です。

最近、時々、歯が痛むので歯医者に行こうかなぁと思っているんですが、人の痛みってどんな痛みなのか他人に伝えるのが難しいですよね。ましてや、外国語で伝えるのはなおのこと困難なので、例えば、日本と台湾のハーフで、日本語も中国語もネイティヴというような方に、痛みを表す言葉の対照表を作ってもらって、病院に備え付けてもらいたいと思うことがあります。日本語で、「ずきずき痛む」とか「きりきり痛む」という表現にぴったり当てはまる中国語はないのかもしれませんが、できるだけ近いイメージが伝えられればそれで十分だと思います。自分の今の痛みについて、「1から10のどこに当たるか言ってみて」と聞くシーンをアメリカのドラマで見たことがありますが、実際、アメリカの医師はそういう質問するんですかね??我慢強い人ほど少なく答える気がします。間もなく始まるかき氷シーズンに備えて、歯が「しくしく痛む」ってことのないように私も備えないといけませんね〜(笑)。

先祖を祭る組織

本日は、祭祀公業について紹介したいと思います。祭祀公業について、台湾生活が2年半を超えた私も一度も聞いたことがなかったのですが、私が住む台北市南部の「里」の掲示板がたまたまバス停のそばにあり、バス待ちをしながら掲示板を眺めているときに、祭祀公業に関する公告が目に飛び込んできたのでした。

祭祀公業とは、簡単に言うと、「台湾に伝統的に存在する、先祖を祭るために作られた組織」であり、先祖が残した土地を後継者が共同で所有し、構成員の会(中文では「派下員大會」といいます)を作って管理するということが実際に行われているようです。私が見た公告には家系図が一緒に掲示されており、その頂点である「世祖」から2代目の「二世祖」、3代目の「三世祖」と下の世代まで連綿と名前が連なり、「十九世」、つまり19代目まで続いていました。全部、「周」という姓の大量の人が連なる家系図はなかなか壮観でした。今回の公告は、この祭祀公業の構成員が相続によって変動したということを伝えるもののようでした。

上記のように先祖が残した土地を後継者が共同で所有し、当該土地を貸し出して賃貸料収入を得るなどして、墓参りと祭祀の経費をねん出しているようですが、時間の経過とともに相続人が増え、紛争が生じてしまうことも少なくなかったようで(財産があるところに紛争が生じやすいのは残念ながら世の常です)、台湾政府は10年近く前に「祭祀公業条例」を公布し、祭祀公業を法人として登記させるなど一定のルールをもって、紛争発生を防ごうとしたようです。同条例ではいくつかの条文で裁判所の関与を求めています。

祭祀公業は数百以上、存在しているようですが、台湾人にとっても一部の人を除き、日常的に話題に上るような存在ではないようです。私の同僚は、「両親が祭祀公業のメンバーなのか知らないし、友達と祭祀公業の話をしたこともない」とのことでした。

祭祀公業は法人として定款を定めることになっており、当該定款の必要的記載事項として「解散の規定」や「解散後の財産分配方式」という内容もあります。台湾人は先祖を大事にする人が多いイメージですので、すぐに祭祀公業の解散ラッシュということにはならないと思いますが、今の若い世代が構成メンバーの中心になっているであろう数十年先には、少しずつ祭祀公業が解散という路を選択してしまっているかもしれませんね〜。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 佐田友 浩樹 (黒田日本外国法事務律師事務所 外国法事務律師)

京都大学法学部を卒業後、大手家電メーカーで8年間の勤務の後、08年に司法試験に合格。10年に黒田法律事務所に入所後、中国広東省広州市にて3年間以上、日系企業向けに日・中・英の3カ国語でリーガルサービスを提供。13年8月より台湾常駐、台湾で唯一中国語のできる弁護士資格(日本)保有者。趣味は月2回のゴルフ(ハンデ25)と台湾B級グルメの食べ歩き。