近年の台湾におけるインサイダー取引
最近、台湾でインサイダー取引の事例が発生した。概要は以下のとおりである。
某上場企業A社に雇われていた甲という会計士は、勤務中「A社が対外投資した案件で失敗し、約30億台湾元の損失を計上することについての重大な情報の公告を行う予定である」ということをたまたま耳にし、この情報が公開されないうちに保有するA社の株式(計41000株)を処分し、これにより約12万台湾元分の損失を免れた。
新北地方裁判所が審理した結果、甲の行為はインサイダー取引の罪に当たると判断したが、甲に前科がなく、過ちを犯した後、過ちを認めて後悔していることを考慮し、2019年12月に懲役1年7か月、かつ執行猶予3年を言い渡した。
台湾法上のインサイダー取引に関する主な規定は、証券取引法第157条の1第1項である。
証券取引法第157条の1第1項:
次の各号に掲げる者は、株式発行会社がその株価に重大な影響を及ぼす情報を有することを実際に知った場合、当該情報が明確になった後、公開前または公開後18時間以内に、同社の上場するもしくは証券会社の営業所において売買する株式またはその他所持人の権利を表章する性質を有する有価証券につき、自らまたは他者の名義により買い付けたり売却したりしてはならない。
- 同社の取締役、監査役、支配人および会社法第27条第1項の規定により指定を受けて職務を代表して行使する自然人
- 10%を超える同社の株式を保有する株主
- 職業または支配関係に基づき情報を得ることのできる者
- 前三号の身分を喪失してから6か月を経過していない者
- 前四号に掲げる者から情報を得ることのできる者
なお、上記に違反した場合には、同法第171条第1項により、3年以上10年以下の有期懲役に処せられ、また1000万台湾元以上2億台湾元以下の過料を併科することができるとされている。
いわゆる「その株価に重大な影響を及ぼす情報」とは、同法第157条の1第5項によると、会社の財務、業務または当該有価証券の市場における需給、公開買付に関わり、その具体的内容がその株価に重大な影響を及ぼす情報、または正当な投資家の投資決定に重要な影響を及ぼす情報を指す。例えば、上記事例における甲が耳にした「A社の対外投資に重大な損失が発生した」というのはこの種の情報に該当する。このほか、「証券取引法第157条の1第5項および第6項の重大な情報の範囲およびその公開方式についての管理弁法」には、この種の重要な情報に該当する情報がさらに数十種規定されている。
インサイダー取引の罪に関する規定はかなり複雑で、罰則も非常に重いため、法を犯すことがないようにするため、台湾の上場会社の株式を取得前、取得手続き中及び取得後には、それぞれ慎重な検討が必要になる。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。
【執筆担当弁護士】