民事強制執行の「時効」

台湾法上、債権者が債務者に対し請求権を行使するにあたっては、行使できる一定の期間があり、当該期間を過ぎた場合債務者は履行を拒否することができる。このような期間を「消滅時効」という。
債権の消滅時効について、民法では主に次のように規定している。

一、例えば貸付金の返還請求など、一般の債権の消滅時効は15年とされている。(民法第125条)。
二、5年間の短期時効:例えば、利息、株主配当金、賃料、扶養料、退職金およびその他1年または1年より短い期間による定期給付債権など(民法第126条)。
三、2年間の短期時効:例えばホテル、飲食店および娯楽施設の宿泊料、飲食代、運送料、医師の診察料、商品の代金など(民法第127条)。

次に、債権者は、債務を履行しない債務者を提訴し、確定した勝訴判決を得た場合、当該債務者に対し強制執行、つまり、当該債務者の財産を差し押さえ、競売に掛けて、競売により得た金額から自己の債権について弁済を受けることができる。

債務者に全く財産がないか、または、財産があるものの、その財産の価額が債権者の債権を全て弁済するには不足するケースが実務上よく見られる。この場合、裁判所は、完全な弁済が受けられなかった債権について債権者に「債権証明書」を交付する。当該証明書の法的意義は二つあり、一つは、債権者が債務者に対し債権を有することの証明であり、もう一つは、後日債権者が債務者の財産を発見した場合に、債権者が当該債権証明書により引き続き当該債務者に対し強制執行を行うことができるようにすることである。

但し、債権証明書にも時効の制約があることに注意しなければならない。

民法第137条第3項には、「確定判決または確定判決と同一の効力を有するその他の執行名義により確定された請求権について、その当初の消滅時効の期間が5年未満である場合、中断により新たに起算する時効の期間は5年とする」との規定がある。

次の通り例を挙げて説明する。

甲社は乙社に対し1000万台湾元の代金債権を有し、甲社は民法第127条に基づき約定弁済期日から2年以内に乙社に対し「代金給付」訴訟を提起し、確定した勝訴判決を得た上で乙社に対し強制執行を行ったが、乙社の財産が不足したために甲社には600万元の債権が弁済されずに残った。このとき、裁判所が当該600万元の残存債権について甲社に「債権証明書」を交付した後、甲社は、5年以内に再度強制執行を開始するか、または裁判所に新たな債権証明書の書換交付を申請することが必須となる。さもなければ、5年を経過した後に甲社は強制執行ができなくなってしまう。

以上の通り、特に時効の制約には留意いただきたい。


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【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修