取締役が財務諸表を良く見せるために架空取引を行った場合、その職務を解くことができる

台湾高等裁判所は、2023年4月28日に23年度上字第132号民事判決を下し、取締役が会社の財務諸表を良く見せるために、実態のない架空取引を行ったことは、証券取引法(以下「証取法」といいます)第20条第2項の規定に対する違反であり、保護機構はこれを理由にその取締役の職務を解くことができる、と判断しました。

本件の事実の概要は次のとおりです。

A社はもともと台湾証券取引所股份有限公司(以下「証券取引所」といいます)での株式の売買について申請して許可を受けていた上場会社であり、保護機構は証券投資家および先物取引人保護法(以下「投保法」といいます)に基づいて設立されたものです。

甲はA社の代表取締役を務めていた2011年から2020年までの期間中、A社の財務諸表を良く見せるために、実態のない架空取引を行い、A社の売上高をかさ上げすることによりA社の売上総利益を水増ししました。これによりA社の財務諸表は実態と異なるものとなっていました。また、甲は、A社の取締役在任期間中、A社の財産を横領し、その金額は1億0718万6042台湾元を超え、A社は重大な損害を被りました。

高等裁判所は、甲が証取法上の虚偽財務諸表申告・開示罪と会社資産横領罪を犯したと認定し、有罪判決を甲に下しました。このため、保護機構は、甲がA社の取締役在任期間における甲の職務執行には投保法第10条の1第1項の法令に違反する重大な事項および会社に重大な損害を与える行為が存在したとして、同項第2号により甲の取締役の解任を請求しました。

この請求について高等裁判所は、「保護機構は投保法第10条第1項の業務の取り扱いにおいて、上場会社、店頭登録会社、店頭登録準備会社の取締役または監査役の業務執行に、会社に重大な損害を与える行為または法令もしくは定款に違反する重大な事項が存在することを発見した場合、会社の取締役または監査役を解任する判断を行うよう裁判所に請求することができ、これは会社法第200条および第200条を準用する第227条の制限を受けないものとし、また、解任事由も訴え提起時の任期中に発生したものに限定されない。会社が何らかの理由により上場廃止、店頭登録取消または上場店頭準備登録取消となった場合でも、保護機構は当該会社に上場、店頭登録または上場店頭準備登録期間中に第1項に定める事由が存在するとき、前三項の規定を適用する」とされていることから、「A社は証券取引所により2020年11月10日をもって上場廃止となることが公告され、また、2021年7月23日に開催されたA社の定時株主総会により、公開発行資格の停止を申請することが決議、可決されたが、甲が会社上場期間中に虚偽財務諸表の申告をしていたことは、証取法第20条第2項に対する違反であり、しかも情状が重大である。また、甲が会社資産を横領したことによりA社は重大な損害を被った。投保法第10条の1第1項第2号の規定により取締役解任の訴えを提起することは、同条第4項の規定により、A社がその後上場廃止となり、公開発行を停止することによる影響を受けないため、保護機構が投保法第10条の1第1項第2号の規定により、A社の取締役としての甲の解任を請求したことには理由があり、認容すべきである」と判断しました。

上場廃止や銀行の貸し渋りの危機を回避しようとして、上場・店頭登録会社の取締役が会社の運営状況が芳しくないという事実を隠蔽するため、偽りの取引を行い、虚偽の財務報告書を作成した場合、投資家の投資判断や主管機関による会社の会計事務の照合の正確性に影響を与える可能性があるばかりか、証取法違反にも該当し、保護機構はこれを理由にその取締役の職務を解くことができるため、このような行為は厳に慎まなければなりません。


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【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修