台湾法上の「博愛席」

今年(2024)6月中旬、台北MRTで「博愛席(日本の『優先席』に相当)」に起因して激しいつかみ合いの喧嘩が発生しました。

25歳の女性が退勤後MRTに乗車した際、疲れ切っていたため博愛席に座り休んでいたところ、同じ車両にいた2名の高齢者に「若者は博愛席を占領すべきでない」と罵倒されたため、この女性が逆上して相手とつかみ合いの喧嘩になり、自分で柱にぶつかって顔面が血まみれになったというものです。

このほかにも、台湾の社会では最近、「誰が博愛席を利用できるか」ということに関するトラブルが複数発生していることから、多くの市民が台湾当局に「博愛席の取消」を求めています。これに対し台北捷運局は、博愛席は法規に基づいて設置されたものであるため、法改正がなされるまでは廃止できないとの見解を示しています。

台湾法における、博愛席に関する主な法規は以下のとおりです。

一、障害者権益保障法第53条第3項には、「公共交通機関には、各種の障害者の移動や利用に便利なバリアフリー施設および設備を計画設置しなければならない。指定席を提供していない公共交通機関には障害者および高齢者・体の弱い者・女性・子供を優先的に座らせる博愛席を設置しなければならず、その割合は座席総数の百分の十五を下回らないものとし、座席は車両の乗降扉、船室・客室の扉または出入口の付近に設置しなければならず、車両の乗降扉、船室・客室の扉または出入口までの床は平坦で障害のないものとし、必要に応じて、座席を譲るよう注意喚起する警告の表示または放送を行わなければならない」とあります。

二、公共交通機関バリアフリー施設設置弁法(以下「本弁法」といいます)第8条第3項には、「道路および市街区の旅客輸送用大型乗用車には、以下に掲げる規定に従い、乗客の大型乗用車の利用を助けるバリアフリー施設を設置しなければならない。三、博愛席:指定席を提供していない大型乗用車には行動に支障がある者を優先的に座らせる博愛席を設置しなければならず、また、座席から車両の乗降扉または出入口までの床は平坦で障害のないものでなければならない」とあります。

三、本弁法第12条第2項には、「MRTの旅客車には、以下に掲げる規定に従い、乗客の旅客車の利用を助けるバリアフリー施設を設置しなければならない。二、博愛席:旅客車には行動に支障がある者を優先的に座らせる博愛席を設置しなければならず、また、目立つ位置に博愛席という文字を表示しなければならず、座席から車両の乗降扉までの床は平坦で障害のないものでなければならない」とあります。

よって、現行の台湾法では、優先的に博愛席に座ることができるのは、障害者や、高齢者・体の弱い者・女性・子供および行動に支障がある人に限られます。しかし、博愛席に関する法規の改正を求める声が高まってきていることから、主務官庁の衛生福利部は、「必要のある乗客」はみな座ることができるよう博愛席の利用対象者を拡大する法改正を推進すると表明しました。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修