【公平交易法(独占禁止法)】企業結合

行政院公平交易委員は三越と伊勢丹の域外結合案を禁止しない

行政院公平交易委員会(日本の公正取引委員会に相当する機関。以下、「公平会」という)は、2008年1月31日第847回委員会の決議において、株式会社三越と株式会社伊勢丹が株式会社三越伊勢丹ホールディングスを設立しようとする域外結合案について、公平交易法(日本の「独占禁止法」に相当する法律)第12条第1項によりその結合を禁止しないとの見解を表明した。なお、公平会によると、三越と伊勢丹が経営している事業は百貨店業であり、株式移転の方式で日本に株式会社三越伊勢丹ホールディングスを設立し、結合した後、三越と伊勢丹はともに三越伊勢丹ホールディングスが100%の株式を持つ子会社となるとのことである。

まず、三越と伊勢丹の台湾における投資先の新光三越百貨股份有限公司と大立伊勢丹百貨股份有限公司の規模が(公平交易法に基づき)申告すべき程度に達したため、公平会に結合案が申告された。

次に、本件結合案は域外結合案であるものの、台湾の市場に直接・実質的かつ予見可能な影響がないとは言えないことから、公平会の管轄範囲に属すべきであると公平会により判断された。

さらに、大立伊勢丹百貨店の拠点が高雄市にしかないことから、本結合案の影響を受ける地域は高雄・屏東地区に限られること、新光三越百貨公司と大立伊勢丹百貨公司のマーケット・シェアは第3位と第4位であるものの、結合したあとでもマーケット・シェアは全体の4分の1に達せず、市場の構成に顕著な影響を与えないと考えられること、百貨店の客層、位置、営業の規模、マーケット・シェアの相違、商品とブランドの多様さを考慮すると、カルテルを形成することが難しいこと、台湾における百貨店業の間の競争が激しく顕著な参入障害がないため、潜在的な競争者の存在は既存の業者に競争圧力をかけることができること、本件の結合案が実施された後、市場の構成や競争の程度に実質的な損害を与えず、結合がもたらす全体的な経済の利益は不利益を上回ることから、公平交易法第12条によりその結合は禁止されず、2月15日から本結合案を実施することができると公平会により判断された。

【解説】
1 企業結合
公平交易法第6条第1項によると、ある企業が下記のいずれかに該当する行為を行う場合、企業結合となる。

  1. 他の企業を合併する場合
  2. 他の企業の議決権の百分の三十を超えて有する場合
  3. 他の企業の全部又は主な営業又は財産を賃借し又は譲り受ける場合
  4. 他の企業と共に恒常的な営業をし、又は企業の営業を委託される場合
  5. 直接・間接に他の事業の経営又は人事を決定できる場合

2 企業結合の規制・申告
企業結合の発展は、独占や競争制限をもたらす可能性があることから、公平交易法は企業結合を規制している。他方、中小企業は台湾経済の主体であり、その結合により企業の効率性を向上させることができるため、公平交易法は、一定の規模に達した結合を行う企業に対し申告の義務を課している。
公平交易法第11条第1項によると、

  1. 結合によりマーケット・シェアが全体の3分の1に達する者
  2. 結合に関わる企業のいずれかのマーケット・シェアが全体の4分の1に達する者
  3. 前会計年度の売り上げが公平交易委員会の公告した額を超える者

のいずれかに該当する者は、その結合を公平会に申告しなければならない。公平会は、申告しない者に対し、結合の禁止、全部又は一部の株式の処分、一部の営業の譲渡その他必要な処分を課すことができる。なお、公平交易法第11条第1項第3号の公平交易委員会の公告した額を超えるとは、
(a) 結合に関わる企業が金融機関以外の者である場合、前会計年度の売上げが1 00億台湾ドルを超え、かつ当該企業と結合した企業の前会計年度の売上げが
10億台湾ドルを超える場合
(b) 結合に関わる企業が金融機関である場合、前会計年度の売上げが200億台 湾ドルを超え、かつ当該企業と結合した企業の前会計年度の売上げが10億台
湾ドルを超える場合
をいう。

3 企業結合の制限
公平交易法第12条第1項によると、企業結合の申告に対し、その結合の全体的な経済状態にもたらす利益が、競争制限がもたらす不利益を上回る場合、公平会はその結合を禁止してはならないとされている。言い換えれば、申告された結合の全体的な経済状態にもたらす利益が、競争制限がもたらす不利益を上回らない場合、結合が禁止される可能性がある。

4 域外結合
域外結合とは、二つ以上の外国企業が台湾の領域外で結合し、その結合が台湾市場に直接的、実質的、かつ合理的な予想ができる影響を与えるものをいう。
公平会は、下記の事項を考慮した上、域外結合が同会の管轄に属するかどうかを判断する。

  1. 結合行為の台湾及び外国関連市場に対する重要性
  2. 結合企業の国籍、所在地、及び主な営業拠点
  3. 意図的に台湾の市場競争に影響を与える明確性と予見可能性
  4. 結合企業の母国の法律と政策との衝突が発生する可能性
  5. 行政処分の強制執行の可能性
  6. 外国企業に対する強制執行の可能性
  7. 国際条約・協定又は国際組織の規定
  8. その他公平交易委員会が重要と判断した事項

公平会が判断する際、結合の台湾市場に対する重要性があるかどうかが重要視されるため、結合に関わる企業が台湾において生産又はサービス提供に供する設備がなく、かつ代理店又はその他実質的な販売ルートもない場合、台湾市場に対する重要性がないことから、その結合の可否は公平会の管轄範囲に属しないと考えられる。

5 本件結合案について
本件において、三越と伊勢丹はともに三越伊勢丹ホールディングスが100%の株式を持つ子会社となることから、公平交易法第6条の「他の企業の議決権の百分の三十を超えて有する場合」に該当し、また、その売り上げも公平会が公告した額を超えていると考えられる。そのため、本件結合案は、公平会に申告すべき結合案と判断されたものと考えられる。
公平会は、本件域外結合行為の台湾に対する重要性に鑑み、当該結合案はその管轄範囲に属すると判断したが、三越と伊勢丹が結合しても、そのマーケット・シェアは低く、その結合は競争を制限するというより、むしろ競争を促進すると判断し、三越と伊勢丹の結合がもたらす利益は不利益を上回ることから、公平会は公平交易法第12条により、その結合を禁止しないと判断したものである。

【後記】

2008年3月31日付けで、伊勢丹と台湾企業との合弁契約の期限が切れたため、伊勢丹は大立伊勢丹百貨股份有限公司から資本を引き上げた。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は、当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修