「工程専業法廷」の設立の動きについて

民間又は政府のプロジェクトは、台湾国内経済の発展に重要な意味を持つ。これらのプロジェクトにより雇用の機会が増え、国内需要が刺激されるからである。中でも建設業界においては、プロジェクトの件数は景気が活性化するかどうかの指標とも言える。

台湾におけるプロジェクトの法的規制については、建設業者への許可、土木工事に関する契約に記載されるべき内容、工事の監理、建設業組合などに関係する「営造業法」という建設・工事の基本法などがあるが、一旦、工事に関する紛争事件が発生すれば、それに対する訴訟の審理の効率はよくないことで有名である。

紛争事件の審理は、一件平均10ヶ月を要するとされる。このため、数億新台湾ドルを予算とする工事が進行する中、紛争事件が発生した場合、紛争事件の当事者である建設業者は工事の継続に必要な資金を調達できず倒産し、工事も中止され、下請け業者との間にも紛争が起こるという事態は珍しくない。

訴訟の審理の効率が悪い原因のひとつとして、建設業・工事に関する専門知識を有する裁判官が少ないということが挙げられる。

昨年設立された台湾の「智慧財産法院」(知的財産裁判所)で知的財産権の専門知識を有する裁判官が案件を審理するように、工事に関する専門知識を有する裁判官が専門法廷を組織し、案件を審理すれば、工事に関する紛争事件の審理の効率は向上すると考えられる。近年、台湾における工事に関する紛争案件は年間1000件を越え、今後さらに増加すると予想されることから、建設・工事に関する案件を専門的に扱う法廷である「工程専業法廷」設立の動きがでてきた。

台湾立法院内政委員会は、このほど、建設業の基本法である「営造業法」の第67条の1の草案を審議した。

本草案によれば、台湾の司法院は、裁判所を指定し、建設・工事に関する案件を専門的に扱う法廷「工程専業法廷」を設立し、工事に関する専門知識、又は工事案件を審理した経験を有する裁判官に工事の紛争案件を審理させるとされている。立法院内政委員会の委員は本草案の内容を支持しているが、今回は第1回目の審議であるため、今後、「工程専業法廷」の設立に向けて審議が重ねられていくこととなる。

「工程専業法廷」の設立が確定すれば、裁判官への講習・訓練は急務であると考えられる。台湾の司法院も現在、裁判官への専門的な講習・訓練を行う方向で動いているとされる。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は、当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修