台湾の株式公開発行会社における給与報酬委員会の設置について 

現在、台湾の証券取引法では、台湾証券取引所(TWSE)に上場しているか、または「証券店頭公開売買センター」で店頭公開している台湾の会社の董事、監査役及び支配人の報酬については、特に定められておらず、台湾の会社法の規定が適用されている。台湾の会社法によると、会社の董事、監査役の報酬については、会社の定款または株主総会決議で決定しなければならず、支配人の報酬については、株式会社の場合、当該会社の董事会決議で決定しなければならない。

董事、監査役及び支配人の報酬について、定款または株主総会、董事会の同意が容易に得られるならば、問題が生じるおそれはない。しかし、台湾では、董事、監査役及び支配人の報酬が世界的な潮流に従い、増加する傾向にあるため、しだいに投資家(すなわち株式保有者)と会社経営陣(すなわち董事、監査役及び支配人)との間に、(株主)配当金と董事、監査役及び支配人の報酬とをめぐって、会社利益を如何に分配するかという対立が生まれつつある。

例えば、今年、台湾で主導的地位にあるIC設計(上場)会社において、2010年度の董事報酬が、董事一人当たり約1億新台湾ドル(日本円で3億円)に達した。

台湾の証券取引に関する主管機関「行政院金融監督管理委員会」(以下「金管会」という)もこのような事態に対して、欧米の法制を引用し、取引所内で取引を行っている株式公開発行会社の董事、監査役及び支配人の報酬を管理したいと考えている。現在の改正案によれば、株式を証券取引所に上場するか、または証券会社の営業所で売買(通常店頭公開を指す)する会社は、「給与報酬委員会」を設置しなければならない。

委員会のメンバーについては、改正案発効から3年以内は、3分の1以下のメンバーを董事が兼任することができる(3年後、メンバーについては董事会以外の人員に委任しなければならない)。会社が独立董事を設置している場合は、一名の独立董事が、この委員会の招集者及び議長を担当する。独立董事を設置していない場合は、メンバー同士で一人を推薦する。給与報酬委員会は、董事、監査役及び支配人の報酬について、董事会に提案を行う。董事会が同提案を否決する場合には、3分の2以上の董事が出席する董事会で、出席者の過半数の董事によって否決しなければならない。

また、否決する場合、董事会決議(すなわち議事録)内において、董事会が提案する報酬案が如何に給与報酬委員会の案よりも優れているかを具体的に説明する必要がある。さらに、董事会が給与報酬委員会の提案を否決する場合には、董事会自らが提案する報酬案を可決する必要があるものと解されうる。

金管会は、以上の改正案を2011年末までに施行することを予定している。
現在、多くの日本企業が台湾で投資を行い、台湾の上場会社もしくは店頭公開会社に出資している。一部日本企業の中には直接これらの台湾の上場会社または店頭公開会社の法人董事となり、且つ、別途に個人をこの法人董事の代表として派遣している会社もある。

前述の改正案が可決されれば、台湾の上場会社及び店頭公開会社の経営に対して一定の影響が生じることになると考えられるため、台湾の会社へ投資する日本企業にも間接的な影響が生じる可能性がある。最後に、日本企業の投資する台湾の会社が、一般の株式会社または有限会社に過ぎず、株式の公開発行(すなわち上場または店頭公開)を行っていない場合には、この改正案の影響は受けないものと考えられる。


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【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修