不動産取引価格の強制的開示及び登録

近年の台湾(特に台湾北部地域)の不動産価格の高騰を抑制するため、不動産投機に対する「特殊商品及び労務税条例」(贅沢税)が2011年4月15日に台湾国会(立法院)において可決された。台湾行政院によれば、同条例の施行日は現在のところ、2011年6月1日の予定である。

施行日以降、保有期間が2年以内の不動産(購入してから2年以内に転売される不動産)については、不動産取引により通常納付すべき税金(例えば土地税)のほか、不動産価格の10%から15%の贅沢税を納付しなければならない。このような贅沢税は、同時期に複数の不動産を保有する投資家の利益に対して一定の影響を及ぼすため、台湾の現地報道によれば、贅沢税を免れるために、多くの不動産投資家は保有する不動産を、6月1日までに売却することを望んでいるとのことである。

しかし、台湾政府による不動産投機の抑制措置は、贅沢税だけではない。現在、台湾立法院では、「将来において、不動産取引価格は対外的に開示されなければならない」という措置が審議中である(但しまだ可決されていない)。

まず、「不動産仲介業管理条例」の改正草案において、不動産仲介業者は、不動産取引価格を開示しなければならないという規定が追加された。つまり、不動産仲介業務又は代理販売業務を取り扱う者は、委託された不動産売買又は不動産賃貸借の取引について、売買契約又は賃貸借契約の締結後30日以内に、対象不動産の番地、地番、建物番号及び取引者の個人情報を除き、取引の情報を台湾政府に開示しかつ登録しなければならない。登録後の不動産取引の情報は、閲覧が可能となる。開示又は登録を拒絶する場合、一定の金額の行政上の罰金が科される。(注1参照)

次に、「平均土地所有権条例」改正草案において、不動産取引の売主及び買主は、不動産取引価格を申告しなければならないという規定が追加された。つまり、不動産取引の売主及び買主は、契約の締結後30日以内に、不動産の所有権移転登記を行うほか、台湾政府に対し土地移転価格を申告しなければならない。申告を拒絶する場合、一定の金額の行政上の罰金が科される。

申告された取引価格は政府により税金徴収機関に報告され課税の根拠となることが容易に予想される。このため、起こり得る反発を防ぐために、申告された取引価格は統計分析及び閲覧に使用される場合を除き、税金に関する使用に供されないことが、草案において規定された。

現在、台湾において不動産取引を行う場合、売主及び買主は実際の取引価格を申告する義務を有さず、また、実際の取引価格を申告せずに台湾政府が毎年公告する「土地の現在価値」をベースとして税金の申告を行うことを選択することも適法とされている。政府が公告した「土地の現在価値」は、通常実際の取引価格よりも低いため、不動産売買の売主及び買主の税金の負担は、実際の取引価格を申告する場合と比べて低いものとなっている。

しかし、将来的に不動産取引の実際の価格が申告されなければならなくなると、各地域の不動産取引の市場価格は政府によって掌握され、同価格は「土地の現在価値」を徐々に高く調整するベースとなる。その結果、不動産取引による税金の負担は次第に重くなる。このことは、不動産投機には不利となるが、台湾政府の税収、各地域の不動産の取引情報(特に価格)の公開化には有利となる。
現在、このような制度及び関連する草案はまだ台湾立法院において審議中であり、可決のスケジュールは未定である。

(注1) 現在も、不動産取引の登録制度が存在し、かつ不動産取引の情報が公衆に提供されているが、登録は自由であり、強制的ではない。


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【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修