外国人専門職・技術職の台湾における就労制限の緩和

台湾行政院労働者委員会は、学士の学位を取得した外国人が台湾において、専門職又は技術職に就労するには、2年以上の実務経験がなければならず、かつ月給は47,971新台湾ドルを下回ってはならないという、現行の制限を、2012年7月から撤廃することを発表した。これにより、台湾に留学している外国人は、今年の7月から、大学卒業後そのまま台湾に残り専門職又は技術職に就くことができるようになる。

外国人の台湾における就労制限については、主として「就業役務法」第46条第1項(注1参照)に規定されている。このうち、同項第1号の専門職又は技術職については、「外国人が就業役務法第46条第1項第1号から第6号の職業に従事する資格及び審査基準」第5条第2号によれば、外国人が台湾において、被用者として専門職及び技術職に従事するためには、国内外の大学の関連学部の修士以上の学位を取得するか、関連学部の学士の学位を取得しかつ関連する業務について2年以上の実務経験がなければならないとされていた。

しかも、同基準第8条によれば、外国人が被用者として、専門職及び技術職に従事する場合、その月給は中央主管機関が公告する額(現在は47,971新台湾ドル)を下回ってはならないとされていた。このため、台湾に留学したほとんどの外国人は、台湾の大学を卒業しても、2年以上の実務経験がないため、台湾において就労することができず、帰国しなければならなかった。

上記制限規定の主な目的は、台湾人の就業機会を保障するとともに、台湾の雇用主がホワイトカラー(専門職、技術職)を雇用するという名目で賃金の低い外国人肉体労働者を雇用することを防止することであった。

しかし、2012年4月、シンガポールのターマン・シャンムガラトナム副首相兼財務大臣はシンガポールでの講演の中で、シンガポールは外国人がシンガポールに来て就労することを妨げるべきではなく、これを妨げれば、台湾同様、優秀な人材が流出し、国民所得が減少することになると指摘した。

ターマン・シャンムガラトナム副首相のこの発言は台湾世論の大きな反響を呼ぶとともに、台湾政府に現行の外国人就労制限規定の検討を促すこととなった。その結果、学士の学位を取得した外国人が台湾において、専門職又は技術職に就労するには、2年以上の実務経験がなければならず、かつ月給は47,971新台湾ドルを下回ってはならないという、現行の制限は撤廃されることになった。

今年、台湾の大学を卒業する外国人は5000名近くおり、今後、外国人が台湾において就労することもますます容易になると予想される。

(注1)
台湾の就業役務法第46条第1項:
雇用主が外国人を雇用して台湾領内において従事させる職業は、本法に別途規定がある場合を除き、以下の各号に限る。
1、専門職又は技術職
2、華僑又は外国人が政府の認可を得て出資又は設立する事業の役員
3、以下の学校の教師
(1)公立又は政府機関における登録登記を行った私立の「大専」以上の学校又は外国人学校の教師
(2)公立又は政府機関における登録登記を行った私立の高校以下の学校における、資格を有する外国語課程の教師
(3)公立又は政府機関における登録登記を行った私立の「実験高校」のバイリンガル学科又はバイリンガル学校の学科教師
4、補修教育法に基づき政府機関における登録登記を行った短期学習塾の専任外国語教師
5、スポーツコーチ及び選手
6、宗教、芸術及び演芸に関する職業
7、商船、作業船及びその他交通部が許可する船舶の船員
8、海洋漁労に関する職業
9、ハウスキーパー
10、国家の重要な建設工事又は経済・社会の発展に対応するため、中央主管機関が指定する職業
11、その他、業務の性質が特殊であるため、台湾に当該人材が欠乏し、業務上、確かに外国人を雇用して業務に従事させる必要があり、中央主管機関が個別に認定した者


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【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修