董事と株式会社間の法律関係
2013年7月24日、台湾高等裁判所高雄支所は2013年度上字第38号民事判決書により、「董事と所属先の会社間の関係は、委任に該当するため、董事は法により当然に会社との間の委任関係を随時終了することができる」と判示した。
本件の概要は以下の通りである。
甲はA社の董事であり、2009年9月7日にA社のその他の董事である乙及び丙に内容証明郵便を発送し、董事の職務を辞する旨の意思を伝えた。しかし、A社は董事辞任の変更登記を行わなかったため、会社の登記事項と実際の状況に不一致が生じた。
そこで、甲は、A社を被告として、甲とA社との間に董事の委任関係が存在しないことの確認を求める訴えを提起した。これに対し、A社は、甲にはA社の1千万新台湾ドル余りの横領の疑いがあり、甲の責任を追及するため甲の辞任要求を拒否していることから、甲とA社間の委任関係は存在すると主張した。
裁判所は審理後、次のように判断した。
「会社法第192条第4項では『株式会社と董事間の関係は、本法に別段の定めがある場合を除き、民法の委任に関する規定による』と規定されており、民法第549条では『(第1項)いずれの当事者も、委任契約を随時終了することができる。(第2項)一方の当事者が、他方当事者にとって不利な時期に契約を終了する場合、損害賠償責任を負わなければならない。
但し、当該当事者の責に帰すべきでない事由により、契約を終了せざるを得なくなった場合は、この限りではない。』と規定されている。本件において、甲は2009年9月7日に内容証明郵便にてA社のその他の董事である乙及び丙に通知し、董事の職務を辞する旨の意思を伝えており、また乙及び丙は同日に当該書簡を受領しているのだから、上記の会社法及び民法の規定に基づき、甲とA社との間の董事の委任関係は2009年9月7日をもって終了している。
A社は、甲には横領等の疑いがあるため、甲は委任契約を終了することにより責任を逃れることはできないと主張するが、甲がA社にとって不利な時期に委任関係を終了したとしても、民法第549条第2項の規定によれば、甲がA社に対し損害賠償責任を負うか否かということが問題となるだけであって、甲による委任関係の終了の効力に影響を及ぼさない。よって甲の請求を認める。」
本事例のとおり、董事は理由なくいつでも辞職することができ、会社側は法律上、董事の辞任を阻止することができないことに注意が必要である。
なお、会社法第195条第1項によれば、「董事の任期は3年を超えることができない。但し、再選される場合は再任することができる。」と規定されており、董事の1回の任期は最長でも3年間である。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は、当事務所にご相談ください。
【執筆担当弁護士】