日本の借地借家法と台湾法との相違点

日系企業が、台湾で店舗又はオフィスを借り、2、3年経営に尽力し、やっと採算が取れるようになってきたところ、当初の建物賃貸借契約期間が満了する際、賃貸人が賃料の大幅な引き上げを要求し、条件をのまなければ契約を更新しようとしないため、顧客の流出、移転にかかる時間、内装費などを考慮して、泣く泣く賃料の値上げを受け入れざるを得ないというケースは少なからずあるものと考えられる。

前述のような、賃貸人が建物賃貸借契約期間満了の際に、突然賃料を大幅に引き上げるというケースは、日本ではあまりないものと解されるが、その主な理由は、建物賃借人に対する日本法の保護が台湾法に比べると厚いことにある。
期間の定めのある建物賃貸借契約について、日本の借地借家法第26条第1項は、「建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。

ただし、その期間は、定めがないものとする。」と定め、また、同法第28条は、「建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。」と定めている。

つまり、日本法では、賃貸人が建物賃貸借契約期間満了の際に、更新を望まない場合、少なくとも6か月前までに前もって賃借人に通知しなければならないだけでなく、正当の事由もなければならない。単なる大幅な賃料の値上げについては、基本的には「正当の事由」には該当しないと解されるため、賃借人が同意しなければ、賃貸人が建物賃貸借契約期間の満了後に賃料を大幅に引き上げることは困難であると考えられ、この点では日本は「借主天国」であると言える。

反対に、台湾法では、日本の借地借家法第26条、28条に類する規定がないため、当初の建物賃貸借契約期間の満了後、賃貸人は自由に賃料を引き上げることができることから、台湾は「貸主天国」であると言える。

近年円安により、台湾の法人や富裕層の間で、日本で不動産を購入した後、賃貸することが流行しているが、台湾人(台湾企業)には日本の借地借家法の認識がないため、建物を賃貸した後になって、賃料の引き上げが困難であることに気付くケースがある。

反対に、日本人(日本企業)が台湾で建物を借りた後で、賃貸人による賃料引き上げの行為について往々にしてなすすべがないケースもある。

以上のように、建物賃貸借については日本と台湾で考え方が大きく異なるため、日本で賃貸人になることを希望する台湾人(台湾企業)、又は台湾で賃借人になることを希望する日本人(日本企業)は、厳重な注意が必要であり、事前に専門家の助言を求めるのが望ましい。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は、当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修