株券発行の要否
日系企業から、「会社は株券を発行する必要があるか?」という質問をよく受ける。この質問に対しては、端的に言えば、会社の形態次第であるというのが答えである。すなわち、有限会社、無限会社又は両合会社であれば、これらの会社については法律上、「出資金」という概念しかなく、「株式」の概念がないため、当然のことながら株券を発行する必要はない。
これに対して、会社の形態が株式会社であれば、台湾会社法第161条の1に従って取り扱われる。
同条は次のように規定されている。
- 会社の資本金の額が中央主管機関の定める一定金額以上に達した場合、会社の設立登記又は新株発行に係る変更登記から3ヶ月以内に株券を発行しなければならない。中央主管機関の定める一定金額に満たない場合には、定款に別段の定めがある場合を除き、株券を発行しなくてもよい。
- 会社の責任者が前項の規定に違反し、株券を発行しない場合、主管機関が期限を定めて発行するよう命じるほか、それぞれ1万台湾元以上5万台湾元以下の過料を課す。上記期限満了後も発行しない場合には、引き続き期限を定めて発行するよう命じるほか、株券を発行するまで、1期限の満了につき各2万台湾元以上10万台湾元以下の過料を課すこともできる。
なお、ここでいう「中央主管機関の定める一定金額」とは、経済部90商字09002254560号書簡によれば「会社の払込資本金の額が5億台湾元以上に達する」ことを指す。つまり、払込資本金の額が5億台湾元以下の株式会社は、株券を発行するかしないかを自由に決めることができる。
次に、払込資本金の額が5億台湾元以下の株式会社について株券を発行することによる実益の一つに、株主が株式を譲渡するにあたり、税金を低くすることができることがある。
例えば、A社の株主甲が1000万台湾元の価格で甲が保有するA社の株式10万株の売却を希望しているときに、A社が株券を発行している場合、甲は当該株式の売却にあたり、基本的に取引金額の1000分の3にあたる証券取引税を納めればよい(即ち、1000万×1000分の3=3万台湾元)。
他方、A社が株券を発行していない場合、国税局の見解により、甲がその株式を譲渡することは「証券取引」に該当せず、「一般財産取引」に該当するので、1000分の3である証券取引税は適用されず、利益額に応じた所得税を納めなければならない(甲が外国法人である場合、一般的に20%の所得税率が適用される)。
従って、日系企業が保有する台湾会社の株式を売却する前には、その台湾会社が株券を発行しているかどうかを確認すべきである。株券を発行していない場合には、高額の税金を負担するのを回避するため、当該会社に株券を発行させてから株式を譲渡することも考えられる。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は、当事務所にご相談ください。
【執筆担当弁護士】