従業員の犯罪行為に関する使用者責任について
2014年1月、大型トラックの運転手であるAが司法の不公平に抗議してトラックを総統府にぶつけ、国家旧跡である総統府の建物に損害を与えた。Aの行為に関し、刑事責任については、15年に殺人未遂等の罪名により懲役6年の刑が確定し、また民事責任については今年(17年)1月12日に、最高裁判所が、Aはその雇用主と連帯して建物修理費233万台湾元を賠償しなければならない旨の判決を下した。
民法第188条第1項ではいわゆる使用者責任について、以下の通り規定されている。
被用者が職務の執行において不法に他人の権利を侵害した場合、使用者は行為者と連帯して損害賠償責任を負う。但し、使用者が被用者の選任及びその職務執行の監督において相当の注意を払っていた場合、又は相当の注意を払っていても損害が発生していたであろう場合、使用者は賠償責任を負わない。
上記Aの事件において、裁判所は、Aが総統府にトラックをぶつけた日は、本来トラックで輸送予定の日であったため、当日の運転行為は「職務執行行為」に該当すると判断し、さらに裁判所はAの所属する運送会社は従業員に対する教育訓練が不足しており、従業員を監督する注意義務を果たしていないと判断し、結局Aの雇用主は総統府が受けた損害について連帯して賠償責任を負わなければならない旨の判決を下した。
別の類似事案として、コーヒーショップの店員であるBが金銭問題により13年に甲夫妻を殺害した事件がある。この事件におけるBの民事責任について、裁判所は、Bの雇用主(コーヒーショップ)が民法第188条第1項に基づきBと連帯して被害者の家族に631万台湾元を賠償しなければならない旨の判決を下した。
通常、従業員の犯罪行為について雇用主が抑制又は予防することは難しいため、理論上は、民法第188条第1項但書きが適用される余地があるはずである。しかしながら、上記の2つの事例のとおり、実務において、裁判所は被害者が賠償を受けられるよう、雇用主が連帯責任を負わなければならない旨の判決を下しているケースもある。
よって、現在、多くの企業は従業員の違法行為についてあらかじめ賠償責任保険に加入し、従業員の違法時における雇用主の賠償リスクを分散させている。この点は、外国企業にとっても参考になるものと考える。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は、当事務所にご相談ください。
【執筆担当弁護士】