台湾法上の起訴猶予

2018年1月、台湾のある人気女性スターが飲酒運転をして、社会の大きな注目を集めました。当該女性スターの飲酒運転という犯罪行為に対し、台北地方検察署の検察官は調査を行った後、最終的に2月上旬に当該女性スターを2年間の「起訴猶予処分」とし、さらに60時間の義務労働の提供を要求しました。

起訴猶予処分とは、検察官が、被疑者の行為につき犯罪が成立すると判断するものの、必ずしも起訴が必要ではない場合に、一定の期間を定めて起訴を猶予することができ、当該期間中に起訴猶予処分が取り消されない限り、期間が満了すれば、不起訴処分に相当する法律効果を生じさせる処分を言います。

刑事訴訟法第253条の1以下では、比較的軽微な犯罪(死刑、無期懲役または主刑が一番軽くて三年以上の有期懲役以外の罪を指す)に限り起訴猶予処分とすることができると規定されています。なお、検察官は、起訴猶予処分とするための条件として、被疑者に対し、1.被害者への謝罪、2.始末書の作成、3.被害者への賠償金の支払い、4.公庫への一定の金額の納付、5. 40時間以上240時間以下の義務役務の提供などを含む一定の義務の履行を要求することもできます。

また、1.起訴猶予期間中に被疑者が故意に有期懲役以上の罪を犯し、検察官に起訴された場合、2.起訴猶予に付される前に被疑者が故意にほかの罪を犯し、起訴猶予期間中に有期懲役以上の刑の宣告を受けた場合、3.被告が上記で言及した履行すべき義務に違反したなどの場合には、起訴猶予処分が取り消される可能性があります。

関連する証拠が明白で、被疑者の犯罪行為を否認するのが困難な場合には、検察官が被告を不起訴処分とする可能性は非常に低いため、この場合には、起訴猶予処分を獲得し、起訴により事件が裁判所の審理へと進み長期化するのを避けることが、被疑者にとって最も有益なことだと言えます。

もっとも、検察官から上手く起訴猶予処分を獲得することができるか否かについては、被疑者の弁護士の能力と経験、および検察官の思考を予測、理解できるか否かが非常に重要になります。弊所では、検察官職歴を有する台湾弁護士が在籍しており、日本人被告のために起訴猶予処分を獲得し、当該日本人被告をスムーズに日本に帰国させた経験が数多くあります。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は、当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修