台湾法上の取締役の責任
台湾法における株式会社の取締役の主な責任は次の通りである。
1、会社責任者としての損害賠償責任
根拠は、会社法第8条第1項「本法において会社責任者とは、合名会社、合資会社においては、業務を執行し又は会社を代表する株主をいい、合同会社、株式会社においては取締役をいう。」、及び同法第23条「(第1項)会社責任者は業務を忠実に実行し、且つ善良な管理者としての注意義務を果たさなければならない。 これに違反して会社に損害を与えた場合、損害賠償責任を負う。(第2項)会社責任者が会社の業務執行において法令に違反して他者に損害を与えた場合、他者に対し会社と連帯して賠償責任を負わなければならない。」である。
2、法令、定款に違反した場合の損害賠償責任
根拠は、会社法第193条「(第1項)取締役会の業務執行は、法令、定款及び株主総会の決議に従わなければならない。(第2項)取締役会の決議が前項の規定に違反して会社に損害を与えた場合、決議に参与した取締役は 会社に対し賠償責任を負う。但し、異議を唱えていた取締役は、それを証明できることを示す記録又は書面がある場合、その責任を免れる。」である。
台湾でのここ数年における、取締役の損害賠償責任額が最も高額な事例は、太平洋電線電纜公司の事案である。
当該事案の概要は以下の通りである。
1994年より、台湾の上場会社である太平洋電線電纜股份有限公司(以下「太電社」という)の代表取締役・孫氏、財務長・胡氏等は、海外において様々なペーパーカンパニーを設立した上で、当該ペーパーカンパニーをして太電社から多額の借入をさせ、更にマネーロンダリング等の手段を通じて、200億新台湾ドルを超える太電社の資金を不法に取得した。
本事案は2003年に摘発され、刑事責任については、現在までに複数名の太電社の役職員に対し業務上横領、背任等により有罪判決が下された。
民事責任については、台湾の投資家保護センターが太電社の2万名余りの株主を代理して、80億新台湾ドルを連帯して賠償するよう孫氏等22人に対して請求した。台北地方裁判所の審理後、2018年2月に「孫氏を含む太電社の自然人の取締役、法人取締役、監査役等22名の被告は、監督職責等をきちんと果たさなかったため、約74億5130万新台湾ドルを連帯して賠償せよ」との判決が下された。
台湾法上の取締役の責任はかなり重いため、外国人や外国企業が台湾企業の自然人取締役、法人取締役に就任する前には、取締役の法的な義務、職権などについて、専門家の適切な助言を得るのが望ましい。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は、当事務所にご相談ください。
【執筆担当弁護士】