第14回 民法(債権法)の改正について

現行民法のうち契約等の債権関係の規定は、明治29年の制定から約120年間ほとんど改正されませんでした。それは、債権法が、特別法や判例により補完されたこと、債権法の規定の多くが任意規定であり当事者が契約により修正することができたことなどから、重要性が高くなかったからです。
しかしその後、社会・経済は大きく変化し、多数の判例や解釈論が民法の条文にかかわらず実務に定着したため、基本的ルールが見えない状況となりました。そこで、社会・経済変化に対応し、国民にわかりやすい民法とするために、平成29年5月26日に債権法の改正が成立しました。本稿では、そのうち重要5項目について簡単にご紹介します。

【消滅時効】

  • 業種ごとに異なる短期の時効を廃止し、原則として「知った時から5年」又は「権利を行使することができる時から10年」のいずれか早いほうの経過によって時効完成することとしました。
  • 現行法の「中断」と「停止」というわかりにくい概念を、「時効の更新」と「完成猶予」に整理しました。

【法定利率】

  • 法定利率を現行の年5%及び商事利率6%をいずれも年3%に引き下げ、市中の金利動向に合わせて3年ごとに1%単位で変動できる制度を導入しました。

【保証】

  • すべての根保証について、①極度額の定めを義務化し、②保証人への強制執行、保証人の破産、保証人又は主債務者の死亡により主債務の元本を確定することにしました。
  • 事業用の融資について、①経営者以外の保証人(個人)については公証人による意思確認手続を新設し、②主債務者による保証人(個人)への情報(財産及び収支の状況、担保の内容など)提供義務を新設しました
  • 主債務者が期限の利益を喪失した場合、債権者による保証人(個人)への情報提供を義務化しました。
  • 委託を受けた保証人に対する債権者の情報提供義務を新設(主債務者の履行状況)しました。

【債権譲渡】

  • 将来債権の譲渡(担保設定)が可能であることを明記しました。
  • 譲渡制限特約付債権について、原則として債権譲渡を認めて債権者の資金調達の便宜を図る一方、債権譲渡後も債務者の債権者(譲渡人)に対する弁済を認めること及び譲受人が債務者に直接請求できる場合を法定し、債務者及び譲受人を保護する仕組みを創設しました。

【約款】

  • 定型約款を契約内容とする合意があった場合など(組入要件)、約款の具体的内容を相手方が認識していなくても契約内容となることを明記しました。
  • 信義則(民法1条2項)に反して相手方の利益を一方的に害する条項(不当条項)は無効と明記しました。
  • 定款の変更が相手方の一般の利益に適合する場合など、定型約款の一方的変更の要件を法定しました。

以上の改正民法(債権法)は、2020年4月1日に施行されます。ただし、施行日には次の2つの例外があります。

  • 定型約款に関しては、施行日前に締結された契約にも、改正後の民法が適用されますが、施行日前(2020年3月31日まで)に反対の意思表示をすれば、改正後の民法は適用されなくなります。
  • 公証人による保証意思の確認手続について 事業貸金等債務を主たる債務とする保証契約は、原則として、事前に公正証書が作成されていなければ無効となりますが、施行日から円滑に保証契約の締結をすることができるよう、2020年3月1日から公正証書の作成を可能とされています。

*本記事は、法律に関連する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者

パートナー弁護士 飯田 直樹