第265回 フェラーリを壊した損害賠償責任
2018年12月16日、新北市の山道でトラックを運転していた男子大学生が疲労のために運転を誤り、道端に止められていたフェラーリのスポーツカー4台に相次いで衝突してしまいました。大学生は経済的に苦しい母子家庭出身で、母親の店の配送の仕事を手伝っていた際の事故でしたが、車両の修理費用は計1,000万台湾元(約3,500万円)を超えると予想されました。
衝突を受けたフェラーリの所有者たち4人には何ら過失がなく、本来100%同情に値する被害者のはずですが、世論は加害者である大学生への同情に傾きました。一般人に巨額の賠償リスクを負わせるような高級スポーツカーは運転すべきではないといった、被害者4人への非難も出たほどでした。
台湾法上の損害賠償責任について、民法第216条第1項には次のように規定しています。「損害賠償について、法律または契約に別途定めがある場合を除き、債権者が被った損害および失われた利益の補填(ほてん)を限度としなければならない」。この規定によると、大学生は本件において、原則として4人のフェラーリ所有者に修理代を全額賠償しなければなりません。
賠償額の大幅軽減も
一方で、民法第218条では次のように規定されています。「損害が故意または重大な過失によって引き起こされたものではない場合において、その賠償が賠償義務者の生計に重大な影響を及ぼすときは、裁判所はその賠償金額を軽減できる」。すなわち本件において、大学生は故意または重大な過失によってフェラーリに衝突したわけではなく、また車両修理代によって生活が困難になる可能性が高いため、裁判所は民法第218条に基づいてその賠償金額を大幅に軽減できるわけです。
本件は高い注目を集めたことから、現在、ある立法委員が「今後、有名高級車の所有者は必ず自身で全額の車両保険に加入し、また、保険会社から保険金を給付された後、事故を引き起こした者に対して求償してはならない」ことの立法化を提案しています。また、少なくない市民が車両修理代の賠償費用として大学生への寄付を行っています。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。
執筆者紹介
国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。
本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。